『つないでゆくおもい…』

世間一般では3/3は桃の節句。
そう、ひな祭りである。
勿論その行事は魔物娘達にも当てはまりこれを祝うのがジハーングの慣わしでもあった。
その3/3の宵ノ宮。
中心街のとある二階建ての一軒家、そのリビングに飾られるお雛様があった。
ただそのお雛様…両隣に飾ってある同じようなお雛様よりお世辞にもきれいとは言いづらい。

「お母さん! 招(しょう)お母さん!」
「はいはい、どうしたの? 京(きょう)ちゃん?」
「このお雛様…」
そして朝方一番に元気よく動き回る妖狐の女の子はそのお雛様を指差して不思議そうな顔をするとその後ろから近づき歩み追いついた母であろう妖狐が屈んで女の子の頭に手をのせてナデナデしながら優しく問いかける。

「どうして『古里瀬』のお雛様は汚れてるの? お内裏さまの顔がないの? 葉佳(ようか)ちゃんの家も皐月(さつき)ちゃんの家もおっきくて綺麗なのに…」
「葉仁(ようにん)や卯月(うづき)の所のは確かに綺麗でデカイよね。でも…」
「でも?」
といいつつ母親は屈んで子供を後ろから抱きしめたまま『古里瀬家』と貼られた正面の雛壇の左右、『役堂家』『御門家』のものと視線を移し再び『古里瀬家』へ視線を戻して自身の腕に収まっている娘へ視線を落す。
すると娘のほうも視線を点を仰ぐ如く見上げる形で止まっていたので母親と視線がピッタリと合う。
自然と「ふふふ♪」と声を出して微笑みあう親子はとても暖かい印象を見るものに与えていたが自身に近づきつつある影達に気がついていないようだ。

「ウチらもその話混ぜたってぇなぁ、な?」
「私も興味があるから聞いてもいいか?」
「え、うーん…構わないけどさ…」
同じ家に住む刑部狸とアヌビスの親子が妖狐の親子の背中側からやってくると人懐こい笑顔の刑部狸の母が妖狐の母へと声を掛ける。
アヌビスの母親もだ。
それを仕方ないなぁ、とは言うものの何所となくうれしそうなのは妖狐の母。
それぞれの母娘が手近にあった椅子などを持ってきて円陣を組み準備が整ったのを見やる。

ーーそして妖狐母親は語りだす。

「じゃあ話すよ、母から教えてもらったこのお雛様に籠められた『おもい』を、さ…」

ーー雛人形へ視線を移しながら…



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「はぁ〜…だるいなぁ〜…」
「ちょ、花魁様っ! いくら準備中といっても場所は弁えて…」
「あぁ〜はいはい。」
時はまだ武士が治世を行っていた頃、宵ノ宮と呼ばれる様になる数年前のこと。
奉行所を中心にして栄えだした『街』から半里ほど離れた場所に設けられたソコに水を湛えた堀で囲まれるもう一つの『町』がある。
そこでは何処も彼処も女が男に色目を使いあの手この手で男を誘おうと躍起になっている風景がありふれており、その女達を囲う建物は見るも色彩鮮やかで華やかな二階立ての建物が所狭しと軒を連ねていた。

俗に言う『遊郭』である。

その中でも最も豪華な建物の二階、その手すりに肘を掛けて道行く人々を気だるそうに見下ろす女性は付き添いと思われる女性から幾重にも羽織った着物がずれてしまい肩が露出しあわや乳房までが見えそうな所を直して貰っていたところだった。

「梨花様…こうだらし無くては下の者への示しが…」
「そんなものはいいのよ。皆が皆自分を綺麗にするためにココに入るんだもの…勝手に
己の襟元を正すことくらい出来なくて何が芸子か」
「…仰るとおりで…」
服を直してもらっている間も全く見向きもしない彼女は変わりに自分の頭に生える金毛の三角耳を小刻みに起伏させて恰も手話でもしているように動かし、相槌を打つようにたゆやかに揺れる一本の尻尾は絶えず付き人のフサフサな手をぺちぺちと叩く。
対して付添い人は「はぁ…」と小さくため息を漏らすと頭頂点についたトンガリ耳をぺたりと寝かせて二本の猫そのものの尻尾もだらりと垂らす様子から察するにどうやら困っているようで…。

「それにしても…暇ねぇ〜」
「は、はぁ…」
そしてまた最初に戻る、という感じで梨花と呼ばれた妖狐の花魁と付き添いのネコマタの彼女は悪戯に時間すごしているのだが…


如何せん彼女の言う通り暇なのだ。


一日中開放されている全国的にも珍しい遊郭といえども…いくらなんでも真昼間から遊ぶものは流石にいない。
いたとしてもよほどの遊び人くらいである。

そしてもし普通の遊女で且つ人間であれば生活周期を夜に合わせるべく今の時間は夢の中であろう。
しかし残念ながらココの遊女は全員妖怪…魔物娘である。

…ということは?

「ちょいと、おにぃさん♪ アタシと遊んでいかないかい?」
「それよりウチと遊んでくれへんか♪」
「おにーちゃん! あそぼっ♪」
ちょうど視界に入った若者を例に取るとアカオニ、ジョロウグモ、狐火と三人に三
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