「…はぁ…またダメだったか…クソったれめ…」
そう呟く彼の座る椅子の前、テーブルの上にはどこかの企業の封筒の封が切られておりそこから出ていた手紙には「不採用」の文字があった。
その文字を見た彼は頭を抱えて重いため息を吐くと徐に立ち上がって冷蔵庫の中のビールを一本取り出して小気味良い音でプルタブをあけると一気にそれを喉奥まで流し込んで息を吐き出す。
「っぱぁ! …はぁ、これで68敗か…」
缶を持ったままテーブルの上の手紙をちらっと見やり続いて床に置かれた【手紙×】と書かれたプラスチックで出来た籠に眼を見やる。
…今にも箱から溢れて床に雪崩れ込みそうな量の封筒の山が出来ておりそれから眼をそらせた彼は遠い瞳で紅く染まり始めた太陽を見ながら涙していたのだった。
上京して早3年…それなりの大学を出てアルバイトをして金を貯めた彼はこの町で現在中流住宅マンションを借りて生活をしている。
「はは…俺ダメなヤツかもなぁ…そして、こんな時にはきっと…」
そう、彼は幾度と無く就職を受けにいくもそのことごとくが不採用にあってしまっていた。
その度に悔しい思いをした彼はその鬱憤を晴らすようにして様々な資格を取って自分を有利にしていったにも関わらず相変わらず続く不採用の輪廻に彼の神経は徐々にやつれていく。
しかし、彼には超えてはならない一線に到達することなく生きながらえている心の支えがあった。
それは…
ピンポーン!
「…やっぱり来たか。どうぞ! 鍵は開いているよ!」
来訪者を示すチャイムが彼へ来客を知らせるとすでに誰が来ているのか分かるのか来訪者の名を尋ねることなく彼はそのモノ達を自分の部屋へ引き入れようと声を大きくして入室の許可を与えると一拍置かずして扉が開いて3人の来訪者が彼のいるリビングへと足を運ばせてきた。
「(ガチャッ)よぉ! また落ちただろ?敦(あつし) 」
「こら! あきまへんよ、招(しょう)ちゃん! まずは敦はんを励まさんとっ」
「…いやいや葉仁(ようにん)? まず挨拶をしろ。すべての人との接点は挨拶から始まるというのをだな(ry」
「…よし、待てお前ら。人の家に入っていきなりゲームをはじめんな招っ! 説教しつつ俺の戸棚から手帳をチェックすんな葉仁っ! そして卯月(うづき)っ! テメェは何故キッチンに向かうっ!?」
ワラワラとそれぞれ思い思いの行動をするフリーダムな客に声を荒げる彼は先までの曇鬱な空気はもうどこかへ吹き飛んでいた。
そう、彼がこうして人生を諦める事無くいられる理由がこのフリーダム過ぎる彼女達である。
「えぇ〜、だって僕よりステージ進んでんじゃん? さっすがフリー! マジで時間分けてくんね?」
「うるせぇ、招っ! 好きで無職になったわけじゃねぇ! それにテメェは社長だから誰よりも早くゲームできんだろうがっ!!」
「あん?! なんでそれで特権を使うの? あんたバカなの? 死ぬの? …それにそんなことで一々会社使っていたら【古里瀬】の名が泣くわっ(キリッ」
ピコピコと動く耳と4本の尻尾で画面から離れない顔の変わりに彼とのやり取りを成立させているあたり彼らの慣れを感じる…。
一人目は古里瀬 招。
苗字で分かるとおり(※過去作参照)妖狐一家の一端である。
彼女は今現在有り余る知識を元に親から離れ同じ市内で別居し会社を立ち上げている。
「…敦はん、なんやこの…ほらここ。一体何にこんな使はりよったん?」
「…頼むからさ葉仁? 人の預金通帳あさらないでくれよぉ…」
「いややん。敦はんズボラやさかい、ウチが代わりに管理しておくんよ、ええか? それにウチに金管理まかしておくりはれば敦はんはかなり助かると思うんやけど? ほら、ウチぃ『霞ーかすみー』の宵ノ宮支店長兼支部長やさかい、その仕事ついでにチョチョイのチョイや♪」
こちらも耳に茶色の体毛がついてピコピコ動いて太くてフワフワした尻尾を一本揺らしながら、それでもやっぱり視線を通帳に固定したままコミュニケーションをとる…否取れる彼ら。
二人目は御門(みかど) 葉仁。
『霞ーかすみー』グループの支部長で刑部狸である。
その中でも特に商売に秀でていた彼女は今地元の西ジパングから離れてここ宵ノ宮で東ジパング初のスーパー『霞ーかすみー』を営業しており売り上げはうなぎのぼりである。
「…む? 敦、やたら肉が少ないんだが?」
「またお前は…昨日焼いて食ったよ。」
「なにっ!? 今日はすき焼きの予定だったのに…予定が狂ってしまったではないか!」
とダイニングキッチンから怒りの視線で彼をにらむ彼女は耳をぺたんと伏せて尻尾を暴力的にブンブンふって猛抗議をするその姿はとてもではないが…威厳がない。
そして最後の一人、役堂(えきどう) 卯月。
最近ジパング証券所にて頭角を現し一気に上り
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