そよ風で踝ほど伸びている草が靡く大草原。
地上を見渡せば赤土がむき出しの道の所々で休む人や丘陵で寝てしまっているワーシープ、果ては夫婦であろうか…男の横で幸せそうに連れ立って談笑しているラミアなどいるのでここは親魔領と窺える。
そのまま上を見ると…晴れ渡る青一色の空の海に見慣れぬ大きな黒い影。
よく目を凝らして行くと…旧世代の姿に変わっている灰色の鱗のドラゴンだった。
今回の主役の一人である。
では彼…じゃ無かった、彼女に視点を移してみましょう。
ーーーベイヴ、脳天…絡み付くようにhighっ!
「……。」
バサリ…バサリ…。
ドラゴンはただ前だけを見て…いや、視線は遥か彼方を見ている当たり何か考え事をしているみたい?
いやしかし…中々の高高度を飛んでいらっしゃる。
雲がかなり下にあるのだもの。
そんな無表情と思われる彼女だったが時折意図せずして口角が上がっているのだが…果たして彼女は自分で気付いているのだろうか?
ーーー過煩悩です。頭の中では…。
『…くっくっくっ…。』
バサリ…バサリ…。
旧世代のドラゴンがにやけているのを見ると…ぶっちゃけ気持ち悪い。
そんな彼女は一体頭の中で何を思っているのか気になるのでちょっと覗かせて貰おう。
『(アイツから…アイツから告白されたっ!!…でもビビッてオレ…はぁ…帰ったらアイツとどんなプレイするかなぁ…やっぱり最初は愛撫からだよなっ!まずは尻尾で…いやいや、マニア過ぎるな。よし、オッパイでパイズリにしようっ!)』
見事なまでのムッツリ変態である。
『…いままで一人身だったけどな…けどなっっ!』
そんな彼女が恨み言のように小声で呟きながら雲に突っ込みバレルロールを何回転か決めて雲を突き抜ける。
すると彼女は段々人型に変わっていき、雲を抜けるコロには図鑑に載っているような人型にすっかり変わっていた。
ーーー香り立つ あの70's。妖艶且つ破天荒。
「オレにも春が来たぁぁーーっ!!!!」
第一声がそれかいっ!?
まさに雄叫び…いや魂の叫びだなぁ。
「生まれて70年…途中、魔王の影響で雌の体になって…くぅぅっ!」
翼は羽ばたかせながらも片手で目頭を押さえつつもう片方の手はたわわに実った旨の前で握り拳を作っている。
なんというか…彼女の一言一言に哀愁が漂うのは気のせいだろうか…?
ーーー音速(おと)になって…君の元(ゆめのなか)にいこうっ!
「だがそれも…っ! 待っていろよっ!! ディントン!! エッチしようぜぇぇ!!」
一言だけ…
このドラゴン最低だ。
真っ赤に上気し涎が漏れる顔と、胸と甲殻の間に隙間が出来るほど立った乳首、さらには下の口から涎以上に溢れる本気汁。
これをみて誰がプライドが山より高いドラゴンというだろうか?
なので皆様ご一緒に…
このドラゴン最低だ。
では煩悩まみれの彼女が彼の元へ到達するまでちょっとしたむかしばなしでもしましょう…。
………
……
…
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
それはまだ現魔王への入れ替わりの前の時代。
ーーー手をのばせっ! 風が帰り来る…絶え間ない情熱が…
『はっ! 他愛もないなぁ…人間の勇者様ってのはこんなものか!?』
「くっ…つ、強すぎるっ!?」
ここはどこかの洞窟みたいである。
薄暗く湿り気を帯びた岩壁がテラテラとし、生暖かい風が吹き抜けるこの洞窟の最奥へ行くととても開けた明るい空間へ行き着くのだが…どうやらそこで何かしているようだ。
明るくなった部屋の天井を見ると紫色のどんよりとした雲が見えることから、ここは吹き抜けになっているみたい。
よくよく目を凝らしてみるとそれらは一人と一匹のようで、その一人の後方には死屍累々の山が…といいたいところだがよくよく見れば「うっ」「ぐぅっ」と呻いていることから誰一人として命を落としてはいないようだがそれでも重傷には違いない。
『はん! そんなんでこの【轟風のドラゴン・ディンガード】様に挑むってかぁ?…冗談きっついなぁ♪』
「くそぅ…バカにしやがってっっ!! てりゃぁぁぁ!!」
勇者、と思わしき男が荒々しい風を全身に纏い宙に留まるそのドラゴン・ディンガードへ
なけなしの気力と共に魔法で作り出した斬撃を飛ばすも所詮は人と魔物。
その差は歴然過ぎたのだ。
…シュゥゥ…
『あらら〜残念♪ というわけで…ご退場ぉ〜♪』
「へっ!? う、うわぁぁぁ!?」
台風以上の風速で吹く風の壁を貫くには至らずその攻撃はかき消されてしまったのだ。
対してディンガードは心底嬉しそうな声で本日最強の魔法を唱えると死屍累々の山々とともにその勇者を竜巻で巻き上げて竜巻共々遥か彼方へ消えてしまった。
『頑張れよ少年。また来る日を楽しみに
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