『たまには3人で・・・♪』




「はぁ、することねぇなぁ…」
どでかい商館の中、本が所狭しと並ぶ如何にもここが偉い人の部屋ですという場所で社長椅子のようなものに座って振り返り呆けながら窓の外を眺めるちょっとだけ顎鬚と口髭を生やす黒髪のナイスミドルは溜息をつく。

でっかい机の上には錘が傍に置かれている天秤、何かの書面が数十枚、朱肉と小さなインク瓶、インクが乾いてしまった羽ペンが数本…と移動することがあまり無い現地に根付いてその地で商売をする者にとっての必需品が整理整頓されて綺麗に並んでいる。

「まぁ、あいつらが面倒みてるから平和って言えば平和だしなぁ…」
が、如何せん彼は暇そうに頬杖をついて空を仰いだ。
そもそも彼の元までたどり着くようなものがここ最近いないのでソレはそれで仕方がないことでもあるのだが…。

彼の名はラン=ウルギニ。
元・義賊であり今は商会の会長という大商人になったものである。

義賊より転職して時が経つのはとてもはやいもので…
ガケから落ちて怪我をし、運命的な出会いをして3人の美しいラミア種の妻達を娶ってはや25年。

はじめは小さな一軒屋でしていたこの質という商売も扱う商いの種類を増やしていった結果、今やこの世界の色々な町に点在する『三蛇の導き』という店の総本山になり大商人たちの仲間入りをしたわけだ。

その店の系列を総称して…『三蛇商会』。

親魔領の町で四人の始まりの町『セディア』を本店とし、それぞれの支店長には父親の確かな観察眼及び鑑定眼と母親達譲りの魔力感知を受け継いだそれはそれは商魂逞しい娘達が為っているわけだけど本人達はその自覚はないようで…。

営業時間が不規則すぎるもの。
趣味がモロに出るもの。
自分の体毛やそれに関わるものを主に扱うもの。
質より飲食店のほうに手を出すもの。
質と案内嬢を掛け持ちするもの。
旅すがら質を行うもの。
真面目にするもの。

…あげればキリがないが、あえて言うならば30以上ある支店のほとんどの支店長がラミア種である故にハッキリ言って相当ねちっこい交渉をされるので質に出す際は覚悟を決めて挑んでね♪、とは妻のサットの談。

かく言う妻たちはというと、それぞれ商館内にて別々の仕事をしているのだ。

エキドナのテスは娘たちに質の勉強と教育、店の運営方法などを教えつつ営業。
メデューサのタロトは商館の外れに併設した診療所にて数人の娘と看護士達とともに医療に従事してついでに託児所も運営している。
ラミアのサットはというと商館に併設している銀行にてその類稀な金銭管理及び計算能力で今やこの世界に木の根のように広がる『三蛇銀行』の総帥に。

…そんな有能な妻と娘たちのおかげで冒頭のようにランは暇を持て余しているのである。

コンコン!

再び欠伸をしている彼の元へ誰かがドアをノックする音で来訪を伝えると彼は待っていましたっ、と言わんばかりに体を向けなおしドアを見据えて「どうぞ。」と長年の商売でついた威厳をのせて入室をすすめる。

「失礼します、ビビィです。」
「…なんだ、ビビィか…はぁ。」
しかし入ってきたのはカモ…もとい、客では無く第二世代の愛娘であるビビィであった。
ドアを開けてその姿を視認した途端のランの落胆は凄まじく、今までで一番重い溜息を吐く始末で見ている側としては入ってきたビビィという彼女が気の毒になるくらいだ。

「むぅ…客じゃなくてごめんね、パパ…」
「…いや、いいさ。別に怒ってはいないさ。」
スルリスルリと音も無く地面をすりながら母親譲りの巨乳をゆさっと揺し進み、左右に体が揺れる度に眩しく光を反射する真っ白な鱗で本棚へしまわれたの本に照りつけて厚みのある背表紙のタイトルを明るく照らす。
偶々換気の為に開けた窓から吹く風に自慢の真っ白なロングヘアーを靡かせて彼女は父の隣までやってきた。
そんな彼女に苦笑の表情で用件を問うラン。

ちなみに彼女、ビビィはラミア種ではあるが最近図鑑に載るようになったジパングの魔物の白蛇である。
テスの第二子にあたる彼女が生まれたとき、あまりの白さに周りは驚いたそうだ。

そんな彼女も今年で24。
しかし親であるラン達から独立する様子も無く更には彼氏、夫が出来たという報告が16に満たない若い世代を抜きにして唯一、一切無いので目下そのことが心配の種であることは本人には秘密である。

「で、どうしたんだい? ここまで来たということは何か報告があるのかい?」
「うんパパ・・・テスママがもうすぐ卵が生まれるって。」
「なに!? そうか…それは吉報だな! 有難うビビィ。」
再び幾度目かの彼らの愛の結晶である子供達が生まれるということを聞いたランは顔が綻んでいた。
その綻んだ顔のまま立ち上がりこの報告を態々ここまでやってきてくれたビビィの頭に手を載せてナデナデと慈しむように
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