奈々が精神的に打ちのめされた次の日の朝。
日が入って暖かくなり始める部屋の中。
今この部屋には奈々ではなく本来の主のみがおり、その主の長海が椅子に座りとてもでは無いが声をかけれられる様な和やかな雰囲気・・・とは程遠い酷く真剣に何やら文を読んでいた。
「・・・な、何を考えているんだ・・・あの人達はっっ!!」
グシャリと強い握力で文ごと握ったその両手の拳を肩幅のままで広げたまま机がへし折れるのではと言うくらいの力で無遠慮に叩きつけると長海は暫しそのままの体勢でいたが急に立ち上がり振り返りながら小声で呟く。
「・・・急いで焔に伝えなくてはっ!」
いつもの冷静な態度は何処へやら。
焦りを顔に貼り付けたまま長海は額から出た汗を拭わずに椅子を押し倒し扉の向こうへ駆けて行ってしまった。
・・・不意に吹いた風がまだ机の上にあった文の封筒を悪戯に巻き上げ、普段ごく稀にしか感情を表さない長海がこんなにも焦りを露にした相手の名前が日の光の中に炙り出された。
その名は・・・
『長海へ。 武工氏【伊児(いこ)】及び【紀磐(きはん)】』
武工氏。この時代の戦人達の象徴である武器を作る者達である。
そしてその二人のうち伊児の方は親魔国では右に出るものがいないと言われている職人で変わり者であった。
どこが変わっていると言うとそれはおいおいわかるので今は語らずにおこう。
さて、長海の足を追いかけてみよう。
っと、もうすでに焔達の部屋に居る様だ。
「おや? どうしたんだい? 長海。」
「そんなに息を切らせて・・・如何なさいました?」
肩で息をするほどに走って来た長海を出迎えたのは朝の一時を静かに謳歌して茶を飲んで落ち着いていた様子で長椅子に腰掛けた焔と葛篭だった。
「ゼェ・・・ゼェ・・・紀磐がくるっ!」
『っ!!』
優雅でのんびりとしていた茶会の空気は一気に凍り付いてしまい、あたかも全ての時間が止まったかのように小鳥の声すら止んでしまった。
「・・・馬鹿っ!? あの師弟共って馬鹿なのっ!?」
「お、おちついてください焔・・・」
時が動き出すきっかけは早く、焔が怒声を上げたことで鳥達が驚き一斉に羽ばたいてどこかへ行ってしまい代わりにやや遠方から、厳密に言うと天井裏から3人分の気配を感じると天井の一区画分の天板がはめ込みが外れた音を出してずれて上から見慣れた3人がやって来た。
「な、なにっ?! 焔どうしたの!?」
「一体なんだ?! 大きな声を出して・・・」
「あ、あのぅ・・・どうしました?」
三者三様で異口同音の言葉に焔は少しバツが悪い表情をするといつものように結界を張ることにした。
「長海、あの二人は一体今・・・?」
「葛篭・・焔・・あの二人だがな・・・」
『・・・・???』
長海が息を整えたのを見計らって葛篭は質問を投げかけそれに応える長海は呼吸に合わせて途切れ途切れになりつつも喋る。
勿論ただ焔の怒声を聞いて駆けつけた奈々、春、慎香は何も分からないので目を白黒させて三人揃って首を同じ方向に傾げるだけだ。
「・・・史厳の城下町にいやがる。」
『・・・はぁぁ!?/・・・えぇぇ!?』
『・・・・っ????』
呆れ顔の長海の一言が予想外の一言であった焔と葛篭は共に長海が喋り終わって一拍ついて同じ驚愕の声をほぼ同時に上げた。
対して普段そこまで感情の起伏が余り無い葛篭が焔共々驚いて声を上げたことに驚く三人は益々困惑するのである。
「・・・な、なぁ長海? 」
「・・・ぁ、あぁーすまん。奈々、実は俺の武器を補修・・・と言うより打ち直した武工氏が来ているんだよ。・・・伊児さんっていうヤツなんだが・・・」
「なにッ!? 伊児だとぉっ!? どうして長海がそんな凄い人と知り合いなんだ!?」
先にも述べたが伊児という【女の】武工氏は親魔の国においての最高の技量持ちという人だ。・・・いや人だろうか?
かの頑固者技工士は己の気に入った者にしか武器を作らず、逆に彼女から武器を作ってもらうという事は武人にとって誉とでも言うべきことである。
しかもその技術、ただの噂に非ず。
彼女は武器を作るとき、必ずその者に合う形の武器を己の目で見抜く。
その目で見たその者の本質を武器と言う【形】に映しこむ。
伊児の作業を見たとある武人は「その作業の様子はまるで何かに憑かれたかのようだ」と言う。
そして作られた武器はその武人にとって正しく手足の一部と化す。
ひとつ、彼女の打った薄身の刀で岩を斬っても折れず。
ひとつ、彼女の作った弓で矢を射れば見えなくなるまで空に矢が飛び続ける。
ひとつ、彼女の鍛えた槍で大金槌を防御しても大金槌が砕けてしまう。
比喩のように聞こえるだろうが、これは実際に彼女の作った武器を使用した武人達の経験談である。
それだけ凄い武工氏の彼女だ
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