パイレーツ・ティアーズ

前回の街道沿いの町から離れ、多くの船が行き来する親魔物領の港町に取材に来ていたリックとノエル。二人は桟橋から繋がっている巨大な船の扉の前で佇み、興奮で鼻息を荒くしながらも真剣な眼差しで扉の上にある看板を見ていた。その後ろ姿はまるで戦場に行く前の戦士の姿でもある。

「リック……」
「なんだノエル……」
「言っておくが、これは取材だからな……」

ノエルは取材という言葉を強調し、それを聞いたリックはつばを飲み込み、死地に向かうかのような顔で返事をする。

「ああ……分かってるよ……これは取材なんだな……」

二人は顔を見合わせ、無言で互いに頷き合い、ゆっくりと扉を開け、前へと進んでいった。扉の向こうは薄暗く、すぐ階段になっていたが二人は無言で降りていく。その階段を降りる途中から海水が足に浸かり始め、階段を降りる頃には腰まで海水に浸かっていたが、それでも二人は歩くのをやめず進んでいく。薄暗い通路を歩いていくと、タキシードを着た柄の悪そうな男がカウンターに座っており、ジロリとリックとノエルを見て、口を開く。

「お客様。こちらは初めてでしょうか?」

低い声と柄の悪そうな顔とは裏腹に実に丁寧な言葉使いとしっかりとしたタキシードを着ていることが逆にこちらの恐怖を煽っており、気の弱いものなら、すぐにでも泣いて帰ってしまいたくなるほどであったが、二人は怯まずに「そうだ」と答えると、男は二人分の浮き輪を取り出し、再び口を開く。

「当店では魔物娘の了承無しのお触り、及び乱暴やお持ち帰り等は禁止しております。もしこれを破るようでしたら、以後この店を出入り禁止にさせていただきますが宜しいですね?」
「ああ……」

二人は緊張しながらも静かに男の問いかけに答え、浮き輪を受け取る。その答えに満足いったのか男は黙って頷く。

「それでは奥でごゆっくりとお寛ぎ下さい。」

リックとノエルは浮き輪を身に付け、男が指し示す方へと歩くにつれ通路は徐々に深さを増していき、足が届かなくなっても浮き輪と足で泳ぎ続け、通路の先に見える光へと向かう。

そして―――――――










「「「お帰りなさいませ! ご主人様!」」」
「「うむ。」」

彼らを笑顔で出迎えるのは三人のメイド服を着たマーメイド。かわいらしいフリルをつける者、無駄な装飾を省き落ち着いた感じにする者、ハートを刺繍されたエプロンを身に付ける者。その三人ともがそれぞれの体系に合うメイド服を身に付けており、彼女たちの魅力を十二分に引き出している。リックとノエルは三人のマーメイド達によって奥の海水に浮かぶテーブルへと案内されていく。

―メイド喫茶 パイレーツ・ティアーズ―

それが先ほど二人が穴が開くほど見ていた看板の内容。案内している彼女たちが働いているこの近海に幾つかある店の名前。陸に生きるものにとって珍しい海の魔物たちのウェイターがメイド服を着て、足が届かないぐらい海水で沈んだ店内を優雅に泳ぐ。海の男やメイド服大好きな者、また魔物娘好きから高い支持を受けている店であるが、二人が取材するのはメイド服で働く彼女たちではなく店そのものに対してのことだ。リックは前々からこの店を舞台とする話が書きたかったのだ。そこで実際に現場に行き、話しを聞くことにしたが、既にこの二人メイドに魅了されて我を忘れている。ぼーっとしている二人が案内されたそのテーブルは浮き輪をつけている二人にとってちょうどいい高さで浮いており、使いやすい気遣いがされている。

「ご主人様。何なりとお申し付けください。」

案内したメイドのうち一人がその場に残り、二人は海水の中に潜っていく。残ったメイドが笑顔でメニューを聞いたので、リックはここのお勧めを、といった。リックとノエルはメニューなどはじめから無かったかのようにただ、メイド姿のマーメイドたちに見惚れていた。

「……ここは天国か?ノエル?」
「いいえ、メイド喫茶です。」

エロイ魔物娘に変わった衣装を着させることでかえってその魅力を引き立てる。白と黒で彩られたメイド服を着た姿をまず見ない海の魔物ならなおさらの事だ。男の夢のコラボレーションが目の前にし、だらしなく鼻の舌を伸ばすのも無理は無く、念入りに言っていた取材のことを失念しても誰一人とて責められるはずも無い。リックとノエルは注文の品が来るまでの間、華麗なる海のメイドたちを観察し始める。基本的にウェイターは海水の中で待機しているが、呼び鈴を鳴らすとすぐにそのテーブルへ行き、まぶしいほどの笑顔と魔物娘特有の魅力的な体と海水で濡れたメイド服を魅せる。どうやら彼女たちが着ているメイド服は防水加工は余りされておらず、濡れた服がはっきりとメイドたちのボディラインを写す。

「わざとだよな、あれ。」
「どー考えてもわざとです。ありがとうござ
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33