熊と少年

重い荷物を背負って険しい山道を慎重に歩き、これから住む小屋へ向かう。もうすぐ春が来る時期なので雪の大多数が溶けてるが残った雪が風景を白く塗りつぶしてある。まだ雪が残ってるとはいえ、これからの季節に備え、山菜や木々が芽吹こうとしている。俺ことアルフレートは辺りを見回し、観察して頭に叩き込む。それらから、どんな獣がいるのか、どのような場所に罠を仕掛けるか考えていた。無言のまま山を登っていき、少し開けた場所に出たところで小屋があるのが見えた。その小屋はしばらく使われていなかったのか、遠くからでもコケが生えていることが分かる。

「親父ぃ・・・独立祝いに小屋をくれるのはいいけど、もう少しきれいな小屋はなかったのかよ・・・」

ため息を吐きながらも、その小屋の周りをぐるりを回り、小屋の状態を調べた。コケが生えてるものの、丈夫に作られており、人が住むことには何の問題もなさそうに見えた。また、すぐそこに井戸があり、水を汲み上げ飲んでみる。特には問題はなく、飲み水として扱うことができる判断した。小屋の外側を確認すると、荷物を背負って中に入った。中は外ほどみずぼらしい状態ではなく家具が一通り揃っており、一人で暮らすには十分すぎるほど広いが、ほこりがあったり、蜘蛛の巣が張っているので誰の目から見ても、掃除が必要のようだ。

「狩人として、ようやく独立できたのに、最初の仕事が小屋の掃除とはね。」

荷物を降ろし、その中から、吹き掃除に使えそうなものを探した。生憎、雑巾などというものはなく、汗を拭くためのふきんを使うことにした。近くの井戸でふきんを水で濡らし、小屋のほこりや、蜘蛛の巣をふき取っていく。親父に一人前の狩人として生きるように育てられていたため、身の回りのことはある程度できるが、広い小屋を一人で掃除するのはしんどい。結局、半日かけて、小屋の隅々まできれいに掃除し、ベットなどの家具を整えていった。きれいになった小屋を見て、満足感と疲労感、あと空腹が俺を襲う。

「もう夜か・・・もう外を出るのは危ないな・・・」

ため息をさらに吐きながら、空腹を癒すために荷物から保存食である干し肉を取り出し頬張る。干し肉の塩加減を間違えたのか、酷くしょっぱく、硬い。

「狩人としての記念すべき独立初日の飯がこれになるとはな・・・」

本音を言えば、これから活動する山の地形や、植物、獣道などを確認して置きたかったが、思わぬことで時間を費やしてしまった。干し肉を食べ終わると俺は明日に備え、整えたばかりのベットに寝転び、疲労感に誘われるまま、眠りについた。



翌日、辺りが明るくなったことを確認し、俺は山を歩くための準備に取り掛かっていた。木の枝や岩などで傷つけないように手袋などをはめ、まだ冬の寒さが残るこの山で冷えないように外套を身につける。最後に弓矢を磨く。

“己の得物は自らの分身であり、最も頼れる味方だ。”

俺が幼い頃からの親父の口癖。親父は狩人として生きる術を教えてくれた。うまく隠れる手段。獲物の追い方。弓矢の扱い方と手入れの仕方。毒や病気の恐ろしさと対処法。そのどれもが俺が狩人として生きるためには必要なことだった。そして14歳のとき、俺を一人前として認めてくれて独立を許し、今居る小屋を見繕ってくれた。親父にはもう返しきれないほどの借りがある。だから狩人としてうまくやっていくことが俺にできる唯一の恩返しであると思っている。

「だからさっさとこの山のことしらねぇとな・・・」

弓矢の手入れが終わると、小屋から出た。外はやはり寒く、草木が芽吹くのはもう少し先のことになりそうだ。だからこそ野生の生物が活発に動くこともなく、比較的安全に山を散策できる。本当なら、山に詳しい人から情報を聞くべきだったのかもしれなかったのだが、生憎この山の麓にある農村の人々には十分な作物と、麓でも薪が拾えるため危険な山を登る理由がなく、この辺りの地理に詳しい人物は居なかった。一応、昔この山で狩場としていた親父からもらった地図を頼りに周囲を確認する。親父が書いた地図は地形のことや、生えている草木のこと、そして獣道に関して書いており、細部は異なっていたが、大体の部分はあっていた。一通り山を歩き、昼ぐらいになったので、一旦、小屋に戻ろうとした時。不意に後ろの草むらから物音が鳴り響いた。俺は弓を構え、物音がなった方を見た。

「はれ?人間さん?」

声の主は熊のような耳と尻尾、それに手足や胸や隠すべき場所を熊の毛で覆われていた少女すなわち魔物だった。少女とは言っても、髪は肩のところまで伸びていて、身長は俺よりも頭一つ分高く、胸も俺が見てきた中ではかなり大きいほうである。彼女は眠たそうな目をこすり、大きくあくびをする。ちょうど眠りから覚めたような状態であった。

「人間さん人間さん何してい
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5]
[7]TOP
[0]投票 [*]感想
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33