夜は明けて、村人たちは年に一度のハレの日が快晴である事を喜びながら祭を開催した。
ある者は唄い、ある者は踊る。
屋台で作った料理を囲んで酒を飲む者たちもいた。
(結局お祭は始まったけど、あの人の話はどうなってしまったのかしら……)
笑い声と歌声が響き合う中、子供たちが足下に供えた果実を眺めながらガーゴイルは思案を巡らせる。
オウルメイジがくれた薬は説明されたその効果をしっかりと発揮しているようで、今のところ“疼き”は気配を潜めている。
だがこの状態は長くは続かない。オウルメイジ曰く効能は今日中には消えると言っていた。
(もしも今日中に彼女の考えというものが上手くいかなかったら……)
おそらくだが、既に限界ギリギリだった“疼き”を無理矢理薬で抑えていた反動で、自分は理性を失い手近な異性に襲いかかってしまうであろう。
そうなってしまった後の事を考えてしまい、ガーゴイルは不安でいっぱいになる。
そんな彼女の心境にまるで比例するかのように、空は闇夜の暗さが滲み始めてしまった。
祭は滞り無く進行され、最後にガーゴイルの石像への祈りを捧げた後、村人たちは準備の時と同じように老若男女総出で後片付けを始める。
明日から来年も無事に祭を開催できるように頑張ろう。そんな話をしながら村が日常の光景へと戻りつつあるその時。
(これは……?)
ガーゴイルの視界が不自然に白む。
いつの間にかどこからか漂って来た霧が村全体に立ち込め始めたではないか。
今は秋。乾燥しがちなこの季節に霧は珍しい現象だ。
なんだなんだと村人たちが不思議がっているその時も、霧は際限なく押し寄せて来てとうとう村人たちがお互いを視認出来ないほど濃く深くなってしまった。
(この霧……まるで何かに操られているみたい……。───ッ!?)
狼狽えている村人たちのさらに向こう。村の外にただならぬ気配にガーゴイルは思わず顔をそちらに向けた。
ハッとして周囲を見渡すが、幸い霧のおかげで見ていた者はいなかった事に安堵しながら再び異様な気配のする方角を睨む。
(魔力!?それもかなりの数……!しかも村を囲んでいる!)
魔物であるガーゴイルは霧に紛れて何者かがやって来た事に気が付いた。
ただの人間である村人たちはまだその事に気が付いていないのか、視界が悪い中自分の家族や友人の傍に行こうとお互いに呼び合いながら歩き回っているようだ。
(どうしよう!このままだとみんなが……!)
ガーゴイルはどうやって村人たちに危険が迫っている事を知らせるか思案を巡らせているその時。
「うわぁ!」
一人の青年の悲鳴が広場に響き渡った。
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