後編

カランコロンカラン♪

「はーい、いらっしゃい…あら、いつもどうも
#9829;」

魔界バー「月明かり」 仕事の縁もあって、俺がよく足を運ぶ店だ。
店の扉を開けるとこの店の店長一人、ワームのサーナがワイングラスを磨いているところだった。
開店したてともあって、まだ人はいないようだ。

「この時間に来るのは珍しいですね。今日はどのようなご用件で?」
「あぁ、今日はちょっと食事を…ね。」
「なるほど、それではこちらのカウンターにおかけくださいな♪」

サーナに促され、正面のカウンター席に座る。
奥からスルリと、サーナの妹で同じく店長のルーナが出てきた。

「あら、いらっしゃいませ♪」
「今日はまだ客入ってないみたいだな。」
「開店したばかしですし、この時間帯はいつもこんな感じですよ。」
「夜も更けてからが、本番です…♪」
「……そうか。…寧ろ、そっちの方が都合がよさそうだな…」
「……?」

顔を見合わせ、首をかしげるサーナとルーナ。
そう仕草されるのも無理はない。俺は今きっと、凄く複雑な顔をしているのだろうから。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


キアラに衝撃の事を言われてから、俺はどうすべきか悩んでいた。

腐敗のブレス。ドラゴンゾンビの吐くブレスのことであり、男は理性崩壊、女はアンデット化すると言われる危険なブレス。
それを吐かせるということはどういうことかというくらい、俺にだってわかる。
腐敗のブレスが吐かれる条件。
それは、ドラゴンゾンビの前に初対面の者が対峙した時。
そして、その者が敵意を持っている時。
もしくは、ドラゴンゾンビがその者に対し興味を持った時。

これを今俺が置かれている条件に当てはめるとどうなるか。

俺が、レクヴォア公に腐敗のブレスを吐かせるということ。
別に、俺は敵意を持っているわけではない。…だが、俺は男だ。
間違いなく、レクヴォア公は俺に興味を持つだろう。そして、手に入れようとするためにブレスを吐く、これも想像できる。
万が一、ブレスを浴びずにうまくに逃げれたとしよう。ブレスの効果によって、魔界銀は変異し、大きなドラゴニウムの個体が生成されるかもしれない。
だが、一度きりでは意味がない。ドラゴニウムを安定して供給し続けるためには、回収し入れ替えた魔界銀にも腐敗のブレスの効果を与える必要がある。
…つまり、ブレスを吐かせ続ける必要があるのだ。
一方で、一度でもブレスを浴びてしまえば。
俺は理性が崩壊し、レクヴォア公の『モノ』となるに違いない。
問題は、レクヴォア公が俺のやっていることを理解し、俺に自由の時間を与えてくれるかどうかだ。
100%そうしてくれるという証拠は、ない。
幸いプロジェクトメンバーには育成場所も知らせているし、育成方法も記録しているから、俺が戻れなくなったとしても何かしらの対策をしてくれるとは思っている。
ただ、俺が女王様を説得した時に言ったリスク。これをまさに、自分から冒そうとしているのだ。
これでは、女王様にあわせる顔がない。

つまりは、だ。
腐敗のブレスを吐かせずに、これまで通り供給量が少ないままにするか。
俺自身を犠牲にして、後世にドラゴニウムの安定供給の技術を伝えるか。
どちらかしかないのだ。

その究極の二択に、安々と答えを出すことなんてできるわけがない。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


「「なるほど…ねぇ…」」

サーナは腕を組み、ルーナは顎に手を当て神妙な顔をして俺の話を聞いていた。
どうやら、ついつい喋ってしまったようだ。
客に話をさせるテクニックを持っているとは聞いていたが、ここまでのものとは…

「確かに、この二択はその後に大きく影響を与えることには間違いなさそうですね。」
「で・も♪ 貴方は第三の選択肢を見落としているわ。」

サーナは俺の視線の先に三本の指を立てて見せた。

「…第三の選択肢…?」
「そう。吐かせずに今までの生活を続けるか、犠牲になってこれまでの生活を壊すか。そして…
 夫婦となって新しい生活を築くか、の3つよ♪」
「ふ、夫婦…!? いや、しかしそれは2番目の選択肢とほとんど変わらない気が…」
「『モノ』となってしまうか、夫婦となるか、それはそれで意味合いが変わってくると思うわよ♪」

夫婦となることで、自由を利かすことができるようになるのでは、という魂胆だろうか。

「し、しかし…ドラゴンゾンビ相手に…」
「少し思い違いをしているようだけど…魔物娘にだって夫を持ちたいという気持ちはあるの。…いえ、夫が欲しいと思っているの。
 その思いは、人間の女性が持つものよりも深いと豪語できるわ。
 そして、その思いはどの種族も持っている。
 貴方が畏怖と
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