トーマがこの世界に来てから1週間が経とうとしていた。
「お疲れ様でした、こちらが報酬です」
トーマはそう言った男性から絹袋に入った銀貨を受け取った。
彼がいるのは最初に訪れたべネールから街道を進み辿り着く次の街、ステンライナのギルドカウンターである。
この町に着いたのは2日前の夕方のこと。街道に従い森を迂回すると、その先に高い壁に囲われた街が見えた。それがこの親魔物領に併合される前の面影を残すこの街であった。
この街では今日と前日を含め、すでにトーマ、トレア、ミラの3人は2つの依頼をこなしていた。そして先ほど終わらせた依頼で3つ目になる。
依頼内容はそれぞれ、森での薬草の獲得、他任務で人手の少ない治安と協力して資材を横流しする裏組織の検挙、工事現場の資材運搬の応援、どれも彼らにとっては容易い範疇のものなのであった。
ノルヴィはいつも通り露店での商売に明け暮れ、話によれば売れ行きは上々で今日にでも売り切れ御免となるそうだ。
受け取った金を懐に収め、トーマは宿へと帰り着いた。
泊まっている部屋に入ると、そこにはトレアとミラに次いでもう2人、椅子に座っている紳士風な髭を生やした丸い顔の小太りの男と、彼に付き従うように傍らに立つ細身で黒髪をオールバックにした壮年の男がいた。
「お、帰ったか」
「ああ。彼は?」
「初めまして、あなたがお二人のお連れの方ですか。申し遅れました、私、この町で輸送業を営んでいますトーマス・ハンソンと申します。以後、お見知り置きを。これは私の秘書でダラードです」
ハンソンは名刺を渡しながらそう名乗った。見れば、彼の身なりは生地のいいスーツと磨かれた靴、ステッキも所持している。それに「わたくし」という言葉使いからも察せられる通り、どこから見てもちょっとした金持ちだということは想像がついた。
因みに秘書のダラードは黒のスーツに白シャツとグローブ、銀の装飾がついた黒のループタイ姿である。
「はぁ…それで、そういうあなたがどうしてここに?」
「はい、実はちょっとおかしなことがありましてねぇ…その事をうっかり口に出してしまったところ、ノルヴィさん…でしたか?彼が『身内に腕のいい三人がいるから、相談でも』と言ってくれたものですから、お言葉に甘えさせて頂いた次第でして」
「なるほど…。で、そのおかしな事というのは?」
トーマはノルヴィの安請け合いに少々呆れながら、続きを促した。
「いま丁度聞いていたところだ。申し訳ないがもう一度説明していただいても?」
「もちろんです。ダラード」
「はい、旦那様」
ハンソンはそう言うと再び椅子に座り、ダラードは淡々と事情を話し始めた。
ダラードの説明は次の通りである。
まず最初にそれが起こったのは今月初めのこと。ハンソンの経営する会社の社員だったハーピーが、ある日を境に会社に来なくなったのである。ただその時はちょうどハーピーの発情期とも重なるため、仲の良かった男でも連れ込んで巣でよろしくやっているのだろうと思い、誰しもがしばらくすれば会社に戻ると考えていた。
だが彼女は発情期が終わっても戻って来ないどころか、他にも行方を発つものがいた。それはハンソン氏の会社にとどまらず、噂によれば浮浪者の内からも魔物が消え、つい最近では社員の人間の女性まで消えてているというのだ。
治安部隊に相談を持ちかけたが元々数十名しかいないことに加え、今はとある犯罪組織の検挙に忙しく十分な人手を回せていないのが現状であった。
「話を聞く限りだと、ただの行方不明じゃないっていうのは察しが付くな…」
「ええ、ギルドカウンターに依頼を出していますので、受託していただけるとありがたいのですが…」
「わかりました、どこまでお役にたてるが分かりませんが、私たちも尽力させていただきます」
「それは心強いですな。では、私は下に馬車を待たせておりますので、これで」
「ええ」
「よい結果を期待しておりますぞ」
ハンソン氏は一礼すると、机に置いてあった帽子を被りダラードを伴って部屋を出ていった。
「全く、ノルヴィも厄介な仕事を回してくれる…」
トレアはそう言って少し呆れつつ、空いていた椅子に気だるげに座った。
「この仕事を受けるとなると、予定より滞在が伸びるのは必至だ。そうなれば、トーマの魔導師探しだって…」
「いや、俺の方は心配しなくていい。探している相手は別に逃げはしないだろ」
トーマは机の上に報酬の入った絹袋を置き、じっと見ながら言った。
「まぁそうだが…だが、早く見つけて帰りたいというのが本心だろう?」
トレアは中から1枚の銀貨を取り出し、右手でトスしてはキャッチしている。
「あら、ならトレアはトーマに早く元の世界へ帰ってほしいのかしら?」
ミラは
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