戦闘もとい動作試験が開始されて10分。2体の式を倒した後トレアとミラはトーマに加勢した。
「トーマ、ないよりはマシだ!持っていろ!」
トレアは腰の後ろ側に携えた短剣をトーマに渡した。刃渡り60センチ程の厚めな刀身で両刃、グラディウスと呼ばれる類のそれは、式の攻撃を受け流すには多少役立つ代物であった。
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改めて3人は最後の式に向き合った。
「二人とも気をつけろ、こいつ…」
トーマがそう言った時、式の拳が連続して彼とトレアに襲いかかる。回避した彼女の表情は苦々しげにしかめられていた。
「膂力と速度が段違いじゃないかッ―」
紫色の式の動きは、明らかに他の2体と一線を描くものであった。彼女の言う通り単純にパワーとスピードも然ることながら、反応速度もこの式の方が速いのである。
つまりそれは式の隙が減り、トーマ達の危機が増えることを意味していた。恐らく、いや確実に先程までの戦い方は出来ない、トレアとミラは確信していた。
「ミラ!」
「ええ、任せて!」
トレアの呼び掛けに答えたミラは、ホールの壁際まで駆けて行った。そして静かに佇み、魔力を弓矢に込めていく。
「トレア、彼女は―」
「いいかトーマ、私とお前であの式を引きつける。あいつをミラに近づかせるな」
疑問を投げかけようとしたトーマに、時間が惜しいと言わんばかりにトレアはそう言った。直後、式は彼女を標的に定め攻撃を繰り出した。
放たれた手刀を躱し、捌きながらトレアはトーマに説明を行う。
「ミラは今っ、金縛りの術式を矢に組み込んでいるところだっ。術式自体はそこまで構築に時間はかからない。が―」
トーマがそこで背後から斬りかかり、すぐさま距離を置いた。式のターゲットが彼へと移る。
身体能力では魔物であるトレアには及ばないが、トーマの場合経験と技術が活きていた。軍人として格闘術を叩き込まれ、実際の任務でも白兵戦を迫られる場面は少なくなかった彼にとって、式の攻撃はある程度わかり易かったのである。
それを見て感心していたトレアは、我に返り先程の言葉の続きを綴った。
「金縛りの肝になるのは込める魔力の量らしい。おそらくこいつを止めるほどの魔力を込めるには暫くかからざるを得ないはずだ」
「なるほどっ、その間引きつければいいんだなっ?」
「そうだ」
トーマとトレアは左右から攻撃を掻い潜ってすり抜け、攻撃を加えつつ背後に回り込んだ。
秒間約2発のペースで繰り出される拳と手刀による攻撃の狙いは的確で、避け続ける2人にプレッシャーをかけ続けていた。
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トーマたちが苦戦を強いられている中、カウルスは満足気にその様子を眺めていた。
(やっぱあの鉱石は当たりだったな…新しい筐体とも相性が抜群だし、制御系統もワンランク上を使うキャパも出来た…)
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突如、式は腕を左右に伸ばした。かと思うとまるでコマのように回り始め、その勢いはすぐに当たれば無事では済まないと分かるまでになった。
「なっ…これは…」
「カウルス!これはやりすぎじゃないのか?!」
回転した状態で式は突貫し、それを2人は辛くも横っ飛びに避けた。
式は15メートルほど進むと回転を辞め、背後の2人に向き直った。
トーマ達はこの式に何か不穏なものを感じた。性能がどうという話ではなく、何か根本的に他の2体とは違う。しかしトーマとトレアは式の攻撃を掻い潜り続けるしかなく、後方のミラが金縛りの魔法を組み上げるその時を待ったのだ。
ホールの端でその様子を見ていたカウルスもまた驚いていた。そして彼も違和感を感じ始めていた。今まで組んできた式の中でも、あれほどまでに自律性を見せたものはいなかったのだ。
式からのフィードバックは確かにある。しかし、その感覚が格段に軽い。それこそ不安になるほどに。
「お待たせ!行くわよ!」
カウルスが怪訝に思っていると、ミラの合図が聞こえ彼は視線をそちらに向けた。その先では式に狙いを定めたミラが丁度矢を放ったところであった。
背後から飛来した矢の切っ先が式に触れた途端、その切っ先から広がるように魔法陣が現れ、それとともに式の動きは攻撃のため腕を突き出した状態で止まった。
「今だッ!」
「ああ!」
トーマとトレアはそれぞれ振り下ろされたままの両腕を駆け上り、核となっている紅珠に目掛けて剣を突き放った。
「なにっ―!」
激しい金属音が響いた。
2人の剣は核を破壊することはおろか、触れることすらも叶わなかった。なぜなら瞬間的に頭の一部が変形しバイザーとなり、珠は覆われてしまったのだ。
「なんだと…?!」
その声はカウルスから漏れたものだった。それもそのはず、今のバイザーで防ぐ行動、む
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