異文化の町

 町の中から袋を担いだリザードマンが現れ、関所を通りしばらく道なりに進んだかと思うと脇の茂みへ入って行く。

「トーマ、持ってきたぞ」
「ああ、すまん」

 茂みの影にはトーマが隠れていて、トレアが戻るのを待っていたのだ。手渡された袋には彼のための服が入っていた。洋服屋でノルヴィとミラが選んできたものであるが、実を言えばほとんどミラのセンスで選んだものだったりする。

 というのも、トレアはそもそも今着ている服と同じものをもう1着持っているだけで、元より頓着がないのでノルヴィとミラに任せた。ノルヴィはというと安価で素っ気のない物しか選ぼうとせず、旅人が身につける物としては十分なのであるがミラとしては余りに投げやりというか、味気なく感じたのである。
そんな事情があって結局彼女がほとんど選ぶことになったのだ。

 それを聞かされたトーマは、ノルヴィと同じ様なのでも良かったんだけどな、と苦笑した。
 それはさておき、トレアが場を離れるとトーマは早速服を取りだした。
 ダークブラウンの革ジャケットにグレーのシャツ、キャメル色のチノパンにジャケットと同色のハーフブーツだった。

(…結構しそうだな、ほんとによかったのか?)

「服の具合はどうだ?」

 着替え終わった頃を見計らってトレアが声をかけた。

「ああ、ちょうどいいよ」
「そうか。スーツとヘルメットは袋に入れて持っていけばいい。ナイフなどは腰にでも差しておけ」

 彼女の言葉通りスーツとヘルメットは袋に詰め肩に担いだ。サブマシンガンは元々ガンケースの中であるし、ナイフとハンドガンはそのガンケースから取り出したショルダーホルスターに入れ替えた。


 町に入ると、トーマは中世のヨーロッパにでもタイムスリップしたような感覚になった。レンガ造りの建物が、いや、目に映るものすべてが、彼には珍しかった。
 元の世界では本物のレンガなどほとんど見かけはしないうえ、路上に商店が出ていることもない。さらに旅人らしき者たちが思いのほか多く、トーマはこんなに大きな袋を持っていては目立つだろうと思っていたが、それが杞憂だったと知る。
 人間たちはトレアや他の魔物が行き交っているにもかかわらず、それらに目を向けることはなかった。当然だろう、トーマと違い、彼らにはそれが当然なのだから。
 そんな感じでキョロキョロとお上りさん状態で歩いていると、前を行くトレアが急に止まったのでぶつかった。

「おっと…」
「うわっ!…こら、よそ見をするな」

 頭一個分ほどある体格差のせいでトレアは軽く突き飛ばされた。彼女はそのブロンドの髪を靡かせながら勢いよく振り返ると、トーマに文句を言った。

「お前にとって物珍しいのは分かるが、前くらいちゃんと見ろ」
「ああ、すまない」
「全く…着いたぞ、ここだ」

 トーマは看板を見た。そこには見慣れた文字で「宿屋」と書かれていた。

「ここは宿屋か?」

 彼は一足早く中に入ろうとしているトレアに訊ねた。

「そうだ。それがどうした?」
「いや、ただこの世界は文字も同じらしい」

 そう言いながらトーマは中に入った。
 ドアを入って右側には階段、その向かい側にカウンターがあった。カウンターの中には女性が一人立っている。

「そうか、それは都合がよかったじゃないか。私たちはここの二階の部屋に泊まっているんだ、トーマはノルヴィと同じ部屋で構わないな?」
「当然だな」

 トレアについて二階に上がり、左右に伸びた廊下を左に行き突き当りの部屋に入った。

「いま戻った」

 トレアは中にいたノルヴィとミラに言った。

「ええ、そろそろだろうと思ってたわ」
「おや、結構似合ってんじゃねぇの」

 ノルヴィはトーマを見ながら言った。

「ならいいけどな…」
「大丈夫よ、私も似合ってると思うわ。まぁ座って」

 ミラの言葉に従い、彼はベッドに腰を下ろした。

「さっきも話したけど、私たちは旅の途中よ。そしてその道すがらに『あなたをここに連れて来た魔導師』を探す手伝いをするわ。そこまではいいわね?」
「ああ」

 ノルヴィ、ミラ、トレアの3人は旅をしている。元々ノルヴィが行商人として各地を回っていたが、その道中にミラとトレアと出会ったのだ。ミラは大陸の東の故郷である草原、もとい生まれ故郷の村に帰る途中であった。トレアは故郷を離れ、各地を転々としながら「婿さがし」を続けていたのである。
 2人とも旅の途中で有り金が底を尽きかけていたため、ある街でギルドの「護衛募集」の項目を見た際にノルヴィの項目を見つけたのだ。ミラはケンタウロス、トレアはリザードマンとどちらも戦闘を得意とする種族であり、向かう方向がそれぞれ同じであったために彼の護衛に手を挙げたのだった。

「ただな、旅をするのにも宿に泊まるのに
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