魔女の家

 トーマがこの世界を訪れてから、早くも1ヶ月に迫ろうとしていた。
 この日一行は6つ目の町、ボナルフへと到着した。べネールからは距離にして約500キロ、東京から大阪までとほぼ同じくらいの距離である。
 トーマとトレアは宿屋街の一角に佇んでいた。3軒程を回ったのだが空いている宿がなく、ミラとノルヴィだけで空いている所を探した方が早いということになったのだ。トーマとトレアは荷物番として、2人が戻ってくるのを待っているのである。
 壁に凭れながら、トーマは町の様子を眺めていた。これまでの町とそれほど変わらず、レンガと木材の合わされた建物に丸石の敷きつめられた道と、中世を思わせる景観だ。向こうの世界と違って悲壮な顔を浮かべる者はおらず、賑やかである。
 しかし唯一違いを感じられるところがあった。

「トレア、さっきから剣士とか戦士ばかり目につくんだけど、俺の気のせいか?」

 確かにこれまでの町と比べて、そういう装いの者が多い。これまでの街でもいないわけではなかったが、30人に1人くらいの割合。それに比べてこのボナルフは10人に1人、むしろそれ以上に多い気もする。

「いや、当然だ。このボナルフは戦士の街だからな」
「戦士の街か、どうりで…」
「ああ、この東スプル連邦周辺の戦士たちにとっては憧れの場所だ」

 東ルプス連邦。トーマたちが今いる合衆国の名前である。
 ミラの解説によれば、魔物がまだ魔物娘の形をとる前からあった大国が親魔物派と反魔物派に分断されたことにより、元の大国の8つの領のうちの半分が各々独立し、一旦は小国家となった。
 やがて反魔物派もとい教団からの侵攻に対抗するため、4国は再び合併し、4つの領からなる東ルプス連邦となったのである。

 閑話休題。
 トレアは町の北西の丘を指さした。街の半分が乗り上げるその丘の上には、巨大な建造物がその威風を晒している。

「コロシアムだ」
「コロシアム…じゃあ闘技や試合が催されるんだな」
「ああ。ほぼ毎日開かれていて、試合の内容は様々だ」

 単純な決闘形式から勝利条件が特殊なもの、更には将来冒険者や戦士になりたいという子供のためアンダー15の試合まであるらしい。

「私も一度は参加してみたいものだな…」
「ん?滞在中に出てみればいいじゃないか?」
「…いや、やはり今はこの旅と、お前の問題に集中するよ。それに、怪我でもした時には滞在が伸びることになるしな」
「そうか…なんだか悪いな」
「気にするな、この先来る機会などいくらでもある」

 ミラとノルヴィが戻ってきて、チェックインの出来た宿に荷物を置いた彼らは、まだ日が高いということもあり再び街へと繰り出した。既にルーティンとなった動きである。
 ノルヴィは当然商売だ。彼もこの町のことは把握していたので、戦士が好みそうな商品を多く前の街で仕入れてきていた。主に武器防具、それに回復系の魔法薬である。
 他の3人はまず魔導師の所へ赴いた。ギルドでついでに依頼を受託しつつ職員に魔導師の所在を訊く。

「フロートスさんのお宅でしたらこちらになりますね」

 オークの受付嬢は町の地図を出して、その一角を指し示していた。
 場所としては町の南東側、外れに近い所であった。
 ギルドを出た彼らは街の中心部から40分程歩いて、フロートスという魔導師の自宅兼研究所に到着した。

「エヴァニッチの紹介なら無下にも出来んな。まぁ中へ」

 鷲鼻の初老男性が3人を出迎えた。
 奥で話を聞いたが、トーマの探している魔導師ではないことが分かった。

「お時間をお取りしました」
「なに、気にする事はない」
「あなたの他に、この町近辺で魔導師はおられますか?」
「いや、この街に魔導師は私だけ…だな。治癒士や流れの者はおるだろうが、時空間魔法を扱えるほどの者はおらんだろう」
「…そうですか」

 その後少し話をし、トーマ達はフロートスの屋敷を辞した。
 因みにその話というのは、魔力を暴走させる例の隕石片のことであった。エヴァニッチが知り合いの魔導師名義で出した回収の連絡が回っていたらしく、フロートスもつい先日魔力遮断の結界を施した容器に入れて送ったらしい。
 斜陽の差す宿に戻る道で、ミラが2人に質問を投げかけた。

「ねぇ、さっきのフロートスさんの様子、気付いた?」
「…ああ。変な間があったな。彼以外の魔導師の所だろ?」
「そうだな。トレアとミラはどう思う?」
「そうね…思い出しているだけのような気もするし、思い出したからな気もするわね」
「だとして、話さなかったのは話す必要がなかったのか、話したくなかったのか…」
「俺としては前者の気がするよ。少なくとも何かを隠そうとしているふうには見えなかったな」
「…そうか」

 宿にはいつも通りノルヴィが一足先に戻っていた。様子
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