俺には妹がいる。いや、「妹がいた」と言ったほうがいいかもしれない。
魔王軍サバトとかいう意味のわからない団体がこの世界に穴を開け、魔物が満ち溢れて一年。攻めてきた魔物たちによって一人、また一人と童貞が刈り取られていく一方で、俺はまだ童貞を失っていなかった。とはいえ、もっと大事なものを失ってしまったかもしれないが。
ちなみにとっくに両親は万魔殿に去り、今頃はよろしくやっているだろう。ダークプリーストに成り果て、若き日を遥かに超える美貌を得た母は、他の魔物にとられてはたまらないとばかりに俺たちを置いていった。まあ、この世界は既にカップルを中心とした社会制度に成ってしまっているから、こうして両親が消えた子どもたちも問題なく学校に通い、そしてパートナーを一人または二人または帰納法的に証明できる数まで揃えることとなる。
圧倒的男不足の中、俺だっていろいろとアプローチを掛けられた。それでも、俺は忌々しい妹だったもののせいで、こんな世の中になってもまだ童貞を捨てられずにいる。
「にひひー
#9829; お兄ちゃん? 今日の『お小遣い』頂戴?」
「っ、み、ミチル……」
今日は日曜日だ。昨日はよく体を洗い、妹の臭いを落として街で声でもかけてもらおうかと画策していたところだった。どうやら、妹であるミチルはその体のフェロモンを俺の体につけて、これでもかと占有権を主張しているらしい。
具体的にはセンス・マーキングという魔法のようだ。厄介なことに、これは俺の居場所をミチルが知ることもできるものであったようで、ミチルは行く先々で現れては俺の邪魔をしてくる。街で数少ない童貞人間男子である俺に声をかけようとうろうろしているサキュバスたちは、近寄っては来るものの、すぐに肩を落として回れ右してしまうのだ。
「ねー、どこに行こうとしてたの? んふふー
#9829; わたしを出し抜こうなんて、100年早いんだよ、お兄ちゃん」
「……べ、別に……ちょっと映画でも見に行こうとしてただけだよ」
「こんなに朝早くから?」
「ぐむ……」
歳はかなり離れていた。まだまだ第二次性徴途中という体格の、少女の朝焼けの魅力を存分に残していた、可愛らしい少女だった。ショートの黒髪に、中性的ないたずらっぽい顔。すべすべの肌を活動的な衣服に包んで、クラスでも明るい人気者だった、らしい。当時は可愛らしい少年にも間違われたほどだった。
しかし今の彼女を見て少年だと思うものはいないだろう。
妹はデビルという魔物になったらしい。もはや、かつての妹とは似ても似つかない、まるで別物だ。だから俺はこの娘を妹だとは思うことができなかったのだ。
〜〜〜〜〜〜
何時も通り学校に行って帰ってきた妹は、変わり果てていた。日に焼けた、しかしすべすべの柔らかい肌はすっかり青く変色し、髪からも色素が抜けて銀髪になっていた。瞳は赤、白目は黒という人間ではありえないものになっている。明るかった表情は幼くもどこか淫靡な雰囲気をたたえ、柔らかな肌は少女としての細さはそのままに、ぷにぷにと抱き心地の良い牝肉となって帰ってきた。まさに背徳の少女といった雰囲気だった。蝙蝠のような羽と悪魔のようなしっぽが生えているものだから、その正体は推して知るべしだった。
もう人間でなくなった彼女は、にこぉ、と媚びたような、安心したような、獲物を見つけたような、そんな顔で笑った。
「お兄ちゃん……
#9829; 童貞、でしょ……?」
それ以来、俺は妹にお小遣いをあげる代わりに、快楽を与えてもらっている。それは妹と一線を越える訳にはいかないという、俺に残された最後の矜持、いや防衛線だった。
――デビルの契約書
「はい
#9829; これ、プリントだから
#9829;」
などと言って、まんまと罠にかけられた俺は、あっさりとその契約に縛られてしまった。幸い、デビルの契約書はデーモンの契約魔法と異なり、そこまで効力は強くなく、未だ童貞の身でいることができている。
「今日から、うちの学校、魔王軍サバトのものになることになったからよろしくね
#9829; 『お兄ちゃん』」
そう言ってにたぁ、と笑った妹の『お兄ちゃん』のイントネーションが、いつものものと違ったのは、気のせいだったのだろうか。
〜〜〜〜〜〜
それ以来、俺は一年間、妹に攻略される毎日だった。いや、順調に攻略されている。俺が快楽に流されるたびに、ミチルの契約書の効力が強まっていくのが分かる。
「じゃあ、最初のお願い
#9829; お兄ちゃん
#9829;」
妹の最初の契約は単純だった。ミチルは自身の体を俺のオカズに提供し、その際に出た精液を妹は『お小遣い』としてもらうというものだった。
俺はミチルを部屋に連れ込んだ
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