見渡す限り、黄色い景色しか広がらない砂漠地帯の中、この気候に似合わぬ白肌の幼い男の子が、虚ろな足取りで歩いていた。
黄色い景色しかない、とは言ったが、後ろを見ればオアシスが存在する。
むしろ、彼はそこから出てきたところだった。
「あついよぉ……おとぅさん、おかぁさん……」
両親と共に町を転々とし、次の目的地へと馬車に乗って移動していたのだが、休憩としてこのオアシスで案内人共々、身体を休めていた。
しかし、男の子が退屈過ぎるオアシスの外へ出て、少しした後に戻ってきてみれば、馬引きの人はおろか、両親の姿もなくなっていた。
何故いなくなったのか、自分を置いて出て行ってしまったのか、それは今になっては誰にも分からない事である。
途端に心細くなってしまった男の子は、藁にもすがる想いでオアシスを出るが、既に馬車に乗る両親の姿も見えず、その足跡も残ってはいなかった。
戻っても誰もいないオアシスに、外を出れば建物らしきものも見えない砂漠。
見知らぬ土地、さらに救いも見えぬ場所での孤独に、まだまだ小さな子供が耐えられるはずもなかった。
「おとぅさん……おかぁさん……どこにいるの……ぐすっ……ひっく……」
その目から涙が零れ落ちて砂地に落ちていくが、猛暑の太陽に照らされ、その痕跡もすぐに消されていく。
構わず泣き続けていると、遠くから何かが迫ってくるような地響きが聞こえた。
しかし、男の子が顔を上げてみても、辺りは砂漠一帯。
その地響きは、まるでこちらに近付いてくるように大きくなるが、景色が揺れている以外に変化は無い。
得体の知れない恐怖に、男の子は泣く事も忘れてその場でがくがくと震え上がっていた。
そして立っていることすら困難なほどに、地響きが大きくなったかと思えば。
ドパァン、っと言う破裂音と共に、地中から巨大な怪物が目の前に現れた。
「……!!」
男の子はあまりに衝撃的な出来事に、逃げる事はおろか悲鳴をあげる事も出来なかった。
その砂虫のような姿をした巨大な怪物は、己が身に付着した砂を落とすように、無数の牙を持った頭を大きく振り払う。
大の大人三人ぐらいならば容易く丸呑みできるだろう、というほどの大きさ。
そんな怪物が、男の子にその頭を向ける。
左右に三つずつある巨大な紅目が、まるで宝石のように光り輝き、太陽を反射していた。
その宝石から浴びせられる強大な視線に、男の子は恐怖に歯をガチガチと鳴らし、身を震わせるしか術はなかった。
今度は恐怖に涙を流す男の子に構わず、怪物は威嚇するように無数の牙に囲まれた口を開く。
そして、その開かれた口内には。
ピンク色の長い髪を持つ女の人が、全裸でにっこりと笑みを浮かべ、控えめではあるがこちらに手を振ってきていた。
「えっ……え?」
それを見て、男の子の頭の中は、恐怖もろとも吹き飛ばされていった。身震いも消えた。涙も止まった。
見るだけでおぞましい怪物の口内に、女の人がいたのだ。
しかも、その人はどこか淑やかにも見える笑みを浮かべ、自らの胸の横に片手を上げて手を振ってきていたのだ。
常識的に考えれば、突っ込みどころがありすぎる状況である。彼女が全裸だったことがどうでもよくなるほどに、ぶっ飛んでいたのである。
その異状に逃げる事も忘れた男の子に、怪物は俊敏な動作で男の子を頭から飲み込み、まるで喜ぶようにその頭をぶんぶん振り回した。
しかし、一度ピタっと動作を止めて、その地上に出ている全身を、天に向けてピンっと伸ばす。
その姿はさながら、天上の神へ供物を捧げる、高尚な生物――に見えなくもない。
かと思えば、先ほどよりも激しくその頭をぶんぶんぶんぶん振り回した。
時に単純な前後に、時に8の字を書くように、時に頭を大きく回転させるように。
やがて気が済んだのか、その怪物――サンドウォームは男の子を飲み込み、地中へと戻っていく。
そして、残ったのは強烈な日光に照らされる静かな砂漠地帯だったが、その様子を遠くから見ていたらしいある魔物は、の後にこう語る。
――なんかよくわかんないけど、めちゃくちゃ嬉しそうだった、と。
「う……ぅ?」
わずかに気を失ってた男の子が目を開けると、そこは真っ暗だった。先ほどまで眩しい場所にいたせいか、目を開けているのに何も見えない。
まず最初に感じたのは、ぬちゃっとしているのに、とてつもなく柔らかくて気持ちのいい物が顔を覆う感触だった。
抗いがたいその感触に、自ら顔を押し付ける。
「……♪」
すると、自分のすぐ頭上で嬉しそうな声が聞こえ、頭を優しく撫でられた。
顔を上げて目を凝らし、この暗さにようやく慣れてきて、彼の視界に映ったのは。
「あ……」
あの巨大な怪物の口
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