街から遠く離れた場所にある、森に囲まれた小さな村。
青年たちの仕事話が村にわずかな発展を与え、女性たちの井戸端会議が村内の繋がりを深める。
数多くの冒険者たちがこの村の宿に身を預け、この空気を気に入って住人となる者も、数少ないが存在する。
そんな平和な村に、近頃新しい住人がやってきた。
ホブゴブリン一人と、ゴブリン二人。言うまでも無く魔物である。
ある時、村の外へと『たんけん』に出て行った三人組の少年たちが、その魔物三人を連れて帰ってきたのである。
魔物が村の住人になった例はなく、当時はさすがに村の者たちも大変驚いた。
しかし、ホブゴブリンが一人の少年にべったりだった為、その仲を察した村人たちは素直に歓迎を示した。
こうして、村に腰を落ち着ける魔物が、初めて現れたである。
それから、しばらく経ったある日。
太陽が真上から照りつける昼のことだった。
あの日から、揃いそうで揃わなかった当時の『たんけん』パーティ三人と、ゴブリン三人組が集合したのだ。
とは言え、特にやることに変わりはなく、普段どおり木に登ったり村内を駆け回ったりボーっとしたりするだけである。
しかし、遊びが一段落したころに、金髪の少年、キッドがおもむろに言い放った。
「ゴブリンごっこしようぜ!」
あまりに唐突かつ聞き慣れない言葉に、残りの少年たちはおろか、ホブゴブリンのミルルやゴブリンであるトトラとネレレまでもが、意味がわからないといった表情をしている。
「……えぇ!?」
その反応が信じられないと言った様子で、大袈裟にのけ反るキッド。
「テオやコリンはいいよ! でもおまえらはなんでわかんねーんだよ!」
彼の言うお前らとはもちろんゴブリンのことである。
「そういわれても」
「アタイらがどしたー」
「どういうこと〜?」
言われた三人は、その疑問を口々に言う。
説明不足も甚だしいが、キッド少年はやはりゴブリンたちが理解していないのが不満そうであった。
「テオ、分かる〜?」
ミルルがその顔の左右で一束ずつ結われた髪を揺らしながら、隣にいた黒髪の少年、テオの顔を覗き込みながら聞いてくる。
わかるはずもないので、彼は素直に首を横に振った。
「わかんないって〜」
「いや、だからテオはいいんだよわかんなくて! わかってても何も言わねぇし!」
テオは無口を通り越して、言葉を持たぬ少年である。それはこの小さい村の中では結構有名な話である。
生まれながらにして発声器官を持っていないのか、単に言葉を発する方法を知る気がないのか、それとも別の何かがあるのか、実際のところは誰にも分からない。
「テオ、仲間はずれだね〜」
ミルルに、慰めるように頭を撫でられるテオ。
しかし、嬉しそうにしているのはテオではなく、頭を撫でているミルルであった。
「仲間はずれはむしろおれだよ! なんでだれもわかってくんねーんだよ!」
「ちゃんとわかるように言ってよ」
地団駄を踏むキッドに、ネレレがはっきりと言い放つ。
しかし、誰もわかってくれなかった悔しさと切なさは止まらない。
そしてその想いは半ば八つ当たりとなり、指摘してきた相手を指差しながら叫ぶ。
「おまえだれだよ!」
「ぶっとばすぞあんた」
ホブゴブリンであるミルルはともかく、同じゴブリンであるトトラ、ネレレはほとんど似たような容姿をしている。
赤味を帯びたショートの髪に、その髪を一束ずつ結って顔の左右で垂らしていること。
また、頭に二本生えている黄土色のやや小さめの角、そして長い耳に丸いピアスを付けていることも同じである。
さらには、ミルルとは違って、子供の見かけ相応に無い胸を覆うチューブトップや、緑色に透けたショートパンツから、チューブトップと同じ色と模様の布を前方で垂らしている所まで同じだ。
しかし、目の色や耳にしているピアスの色、またチューブトップや緑色のショートパンツから垂らしている布地の模様がわずかに違う。
「やーいやーい! ネレレのびーばー!」
「よく分からないけど本気でぶっとばすぞあんた」
ネレレの目はやや緑色で同系統色のピアスをしている。
また、胸を覆う服には、等間隔に横線の模様が引かれた物を身に付けていて、股間部を隠すように垂らしている布も同様の模様である。
「ケンカか! ショーブか! それならアタイもやるぞ!」
トトラは髪色と同じ赤味を帯びた目の色をしていて、耳にしているピアスも同様の色である。
そして、彼女の身に付けたチューブトップには、縦線の模様が等間隔に引かれている。腰から前に垂らした布地も同じである。
「ちがうよ、ちがうからね、トトラ」
この二人の一番の相違点と言えば、その雰囲気である。
ネレレは三人組
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