男の子は、おつかいで隣町に向かっていた。
隣町とは言え、子供の足で向かうには長い距離だったが、それでも道なりに進んでいけば、到着するはずだったのである。
「…………」
気付いたら見たことのない建物や景色が、視界に広がっていた。
ただ道なりに進んでいただけなのに、どうしてこんなところにいるのか、それすらもわからない。
後ろを振り返っても、自分が歩いてきたであろう道は無かった。
結論から言ってしまえば、彼は理不尽な迷子に遭ってしまったのである。
「……っ……」
全く見覚えの無い、知らない場所。
そこから、果たして家に帰れるかどうか。その望みが薄いと悟った瞬間、途端に心細くなる。
しかし、行動しなければ何も変わらない。
心細さを振り払うように、目元に溜まり始めた涙を拭って周りを見渡した。
よくわからない彫像や物体が散らばる中で、目に付いたのは小さな家らしき建物だった。
赤紫色の屋根に、桃色の壁。そして、そこかしこにうさぎの形の装飾が施された、小さな家。
あの中に誰かいると確信した彼は、その家まで向かうと、赤紫色のドアをノックした。
「はぁ〜い」
そんな声と共にドアを開けて出てきたのは、うさぎっぽい姿をした女の人だった。
肩まで伸びた赤紫色の混じった桃色の髪。頭にある大きな赤紫のうさぎの耳は途中で折れ曲がっている。
首元には黒いリボンに、何だかてかてかしているにんじん。
下半身はピンク色のもこもこしたうさぎの着ぐるみで覆われているが、上半身は胸の下にピンクのハートの飾りをつけたリボンが印象的な、赤紫色のバニースーツだった。
「……!」
そのバニースーツはとても扇情的な服だった。
胸元からへその辺りまで開いていて、こぼれ落ちそうなほど豊かな乳房を、辛うじて抑えている程度でしかない。
また、バニースーツの裾は股間部まで伸びているが、脇から晒されている素肌は下着を身に着けていない事を意味していた。
少しでも激しく動けば陰部が晒されてしまいそうなくらいきわどい服装だった。
「あれ、はじめまして、だよね?」
「え、えっと……その……」
そんな彼女の姿は、幼い男の子であっても少し刺激が強すぎたらしい。
顔を赤らめて、視線を地面へと落とす。
それでも、言わなければ始まらないので、何とか言葉を紡いでいく。
「ま、まよって……」
「ん〜? ――あっ♪」
顔を赤くして俯きながらそう言う男の子に、女の人は首を傾げる。
しかし、すぐに理解したように一度頷くと、にっこりと笑いかけてきた。
「そっかそっか。迷ってるんだ〜……じゃあ、おうち入る?」
「えっ」
あまりにも突拍子の無い提案に、男の子は驚いた。
どうしてそういう発想に至ったのかは分からないが、うさぎの人は笑顔で男の子に手招きをしてくる。
悪い人には見えなかった。
これを拒んでしまえば、きっと彼はまた一人で寂しい想いをしなければならないだろう。
それは、男の子には耐えられるものではなかった。
「……いいの?」
「うんうん、おいでおいで〜♪」
その女の人は腰の横についている小さなハートのリボンを揺らしながら、笑顔で小さく手招きする。
そんな優しい言葉に誘われ、男の子は家の中へと入っていく。
そうして、赤紫色のドアがばたりと閉まった。
しかし、彼は恐らく知らなかった。
その女性は、ただのバニースーツを身を包み、もこもこのうさぎの脚に身を包んだ変なお姉さんではなく、マーチヘアというラビット属の魔物であるということを。
中に入ると、桃色の小さなテーブルが見えた。
少しだけ高いそれは、男の子の身長では見えない。
赤紫色の椅子に座ると、テーブルの上には、たくさんのお菓子がたくさん並んでいた。
「わぁ、すごいね! おねえちゃんつくれるの?」
このお姉さんはお菓子を作れる――男の子がそう思った理由は、どのお菓子にもうさぎの装飾が必ず入っていたからだ。
家の外もうさぎだらけだし、このお姉さん自体もうさぎさんだった。
そうなってくると、このうさぎのお菓子を作ったのも、お姉さんであると考えるのは当然だった。
「うん? うん、作れるよ〜」
男の子の言葉に、お姉さんは嬉しそうに笑いながら答えた。
そして、食べて食べて、とクッキーの皿を男の子の前に差し出す。
「ぼくも、ちょっとだけならつくれるんだ。おばあちゃんに教えてもらったから!」
「うふふ……いいおばあちゃんなんだね」
クッキーをかじりながら、男の子は嬉しそうに語る。
きっと、彼の言うおばあちゃん以外では、一緒にお菓子を作ってくれる友達はいなかったのだろう。
「うんっ! おばあちゃんがつくるお菓子、とってもおいしいんだ!」
「あはっ、そ
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