はぐれたものどうし

 街から遠く離れた、森に囲まれた小さな村がある。
 子供たちのはしゃぐ声が村に活気を与え、老人たちの世間話が村に憩いを与える。
 数多くの冒険者たちがこの村の宿に身を預け、活力を取り戻して村を去っていく。
 そんな平和な村ではあるが、子供たちにとって自然に囲まれたこの場は、冒険心と好奇心をくすぐる絶好の場所であった。
 時折、『たんけん』と称して子供たちが数人で一組となって、朝から村の外へと駆け出していく。
 それでも遠く離れた場所までは行かず、遅くとも夕方までには戻ってくる事が常なので、彼らの親に心配する者はいなかった。むしろ後に語られるであろう、我が子たちの小さな武勇伝を楽しみに、笑顔で送り出すのである。
 そして、この日も。いつも通り『たんけん』に出かけた子供の一人が、はぐれてしまう事すら気付かずに。


 その少年は、まだ陽の光が届いていない、わずかに薄暗い森の中で一人ぽつんと立っていた。
 『たんけん』パーティを組んでいた残りの二人と、はぐれてしまったのである。
 辺りを見回しても、村のある場所など全く分からず、仲間の気配も感じない。
 彼は空を見上げた。しかし、生い茂る葉が邪魔をして空は見えない。
 耳を澄ましてみても、聞こえてくるのは穏やかな風が葉を揺らす音だけ――

「あれぇ〜? ふたりとも、どこ〜?」

 だと思っていたら、全く緊急性を感じない、のんびりとした女の子の声が聞こえてきた。
 しかし、今回の『たんけん』パーティに女の子はいない。
 万が一いたとしても、彼の記憶にある、どの女の子の声とも一致しなかった。つまり、村の女の子ではない。
 とは言え、その声を聞く限りだと向こうも同じ迷子だろうし、それなりに近い位置にいる。
 本来ならば知らない声に近づく事自体が危険なのだが、誰かと一緒にいた方が良い、と考えを結論付けてしまった少年は、声のする方へと歩を進めた。
 がさがさと草を踏み分けて行った先に、待ち受けていた者を見て、少年はしばらく驚いた。

「もう、どこに行ってたの――って、あれ?」

 向こうも、少年の足音を聞いて、仲間がこちらに来ていたと思っていたのだろう。
 二人は、しばし驚き固まる。
 その子は確かに女の子だった。
 少年とさほど変わらぬ背丈。肩にかかる程度の赤味に帯びた髪を下ろしながらも、顔の左右には結われた髪が一束ずつ揺れている。この森で歩くには肩や腹を露出しすぎた服装。そして、頭から二つの角が生えていて、耳は長く、自らの背丈と同じかそれ以上の大きさの木の棍棒を持っていた。
 何よりも、その身体にはアンバランスな程に発育した胸。少年が知る中で、友達の女の子にそんな子はいないが、問題はそこではない。

「えと、だぁれ〜?」

 人間には無い角や長い耳がある事から、目の前にいるのんびりとした雰囲気の女の子は魔物である、と彼は即座に悟ったのだった。


「そっかぁ、テオって言うんだぁ〜」

 迷子の少年――テオが、小さな木の棒で地面に書いた自分の名前を、女の子が読み上げる。
 魔物の女の子は、名前をミルルと言うらしい。ゴブリンではなく、ホブゴブリンであるという事も知った。しかし、ホブゴブリンとゴブリンの違いを理解していない彼には、あまりよく分からなかった。
 どちらにしろ、あの村は魔物に対して排他的ではなく、むしろ受け入れていると言っても良かった。冒険者ほど多くはないが、魔物も村で一夜を過ごしていく事は多いからである。その中でも、未婚の男性と添い遂げ、夫となった男性を連れて村から去っていく事は珍しくない。
 そんな村で育ち、魔物に対する恐怖的な知識を授かっていないテオ少年にとって、角が生えていたり耳が長かったり胸がとても大きい以外には、人間と大して変わりないミルルを恐怖し、拒絶する理由は一つも無かった。
 現在、二人は周りよりも比較的大きな樹に背を預け、隣り合って座っていた。

「テオも、迷子なの〜?」

 こくりと頷く。
 それを見て、そっかぁ、とため息を付くように言いながら、ミルルは空を見上げた。
 釣られて見上げてみるが、先ほどと同じく、樹の枝から伸びた無数の葉に覆われて空は見えなかった。
 迷子だと言うのに、全く危機感の無い空気が二人を包む――というよりも、そんな空気を二人が発する。
 どこか似た者同士であるこの二人が、共に仲間からはぐれ、そして出会うのは必然だったのかもしれない。
 とは言え、このままじっとしていても埒が明かない事は明白である。

「……あっ、テオ、立って〜」

 ミルルが立ち上がると、その身体に不釣合いに大きな乳房がぷるんと揺れる。
 恐らく村の誰よりも豊満なそれに目を奪われつつも、言われたとおりに立ち上がると、ミルルが距離を詰めてくる。
 顔が近くなる中、彼女の瞳に
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