こっくりさん

今年で高校生になった僕には好きな人がいる。
由美さんという同じクラスの子。
取り立てて他の子より可愛いわけではないのだが、初めて見た時からずっと好きだった。
いわゆる一目惚れ。
まあ、思春期だしそんなこともあるはずだ。
当然、声をかけるなんて出来なかった。
よくある恥ずかしくて話しかけられないというやつだ。
同じクラスなんだから挨拶くらいしてもいいと思うのだが、僕は「おはよう」の一言さえ言えなかった。
「はあ…」
寄り道した本屋で僕はため息をつく。
今日も話しかけられなかった。そんな自分をどうにかしたくて、その手の事について書いてある本でも買おうと思ったのだ。
季節は5月に入ったばかりで、まだ「入学後のイメチェン」だの「これでばっちり!すぐにクラスに馴染む方法」といった本が棚に並べられていた。
そんな本を手に取っては戻すを繰り返していると、ある本を取った拍子に1冊の本が棚から落ちてしまった。
それは幅がほとんどない小さな本で、どうやら他の本の間にすっぽりと隠されてしまっていたらしい。
「恋占い。あの子の好きな相手は?」というタイトルだった。
僕は占いなんて信じないのでそのまま棚に戻そうとしたのだが、大した厚さでもないのでパラパラと本を流し読みしてみた。
その時、ふとあるページで偶然手が止まった。
そこに書いてあったのは、こっくりさんだった。
「今時こっくりさんかよ…」
一昔前には流行ったみたいだが、このご時世にそんなことをするヤツはいないだろう。
ほとんど馬鹿にしながらその内容を見てみたのだが、このこっくりさん、少し違うらしい。
具体的には一人でも出来ること、時間が指定されているという点だ。
その時間は午後四時半に始めることと書いてあった。
大して変わりないなと思いながら、携帯を取り出して時間を見るとまだ四時前。
「……」
一応、今から家に帰ればこのこっくりさんが出来る。
いや待て。何を考えているんだ、僕は。
こんなの迷信に決まっている。
そう思っていたのだが。
気がつけばダッシュで家に帰っていた。
親は共働きなので家には誰もいない。
それが後押しとなって、僕は家に着くとさっそくこっくりさんの準備を始める。
ルーズリーフを取り出して「はい」、「いいえ」、「男」、「女」、「鳥居」、「あ」から「ん」までを書き、10円玉を用意する。
ここまでしても信じてない割合は9割9分だったが、それでも興味本位で四時半になると僕はこっくりさんを始めた。
「こっくりさん、こっくりさん、来て下さい」
そう言ってしばらく待ってみたものの、これといった変化はない。
ま、当然だよななんて一人呆れながら、それでもダメ元で言ってみる。
「こっくりさん、いらっしゃいますか?」
すると、ゆっくりと10円玉が動き出したではないか。
「え!?」
誓って言うが、僕は少しも指を動かしていない。
それなのに10円玉は勝手に動いているのだ。
目の前の出来事が信じられなくて、動く方とは逆に指を進めようとするが、まるで自分の指ではないかのように勝手に動いていく。
そして10円玉は「はい」のところで止まった。
そんな馬鹿な。
本当にいるのか?こっくりさんが?
どうしても信じられない僕は一つ質問してみる。
「あなたは偽物ですか?」
すると今度は「いいえ」へと10円玉が動く。
「!!!」
間違いなくいる!
信じられないが、本当に存在しているらしい。
僕は唾を飲み込むと、次の質問をした。
「じゃ、じゃあ、由美さんに今付き合っている人はいますか?」
指は「いいえ」のまま動かない。
つまりいないらしい。
それに安堵のため息をつく。
「えっと、じゃあ由美さんに好きな人はいますか?」
その質問も答えは「いいえ」のまま。
その答えには複雑だ。
好きな人がいないということは、つまり僕のことも好きではないということだから。
微妙にしょんぼりしながら、僕はまた質問する。
「それじゃあ、僕のことを好きな人はいますか?」
いるわけないだろうなと思いながら言ってみると、10円玉が動き出した。
「え?いるの?」
意外だ。予想すら出来ないが、誰だろう。
首をひねる僕をよそに、10円玉は動いていく。
「わ」「た」「し」と。
え?わたし?
わたしって、こっくりさん?
「そう。私」
急に背後から声がした。
反射的に振り向くと、そこには着物を着た一人の若い女性がいた。若いといっても僕よりは年上で、見たところ二十前後だろうか。
「な…、が、あ…」
いきなり後ろにいたこともあるが、それ以上にその人の姿に僕は声が出なかった。
だって、頭には動物の耳があるし、お尻の辺りには三本も尻尾がある。
しかも、どちらも動いていた。
どう見てもコスプレなんかじゃない。
「ふう。久しぶりの世界はやはりいいですね。最近は誰もこっくりさんなんてし
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