旅は出会いと別れの繰り返しだ。
それは私の散歩も同じ。
アルバとチェロの二人から揃って今夜は泊まっていけという誘いを丁寧に断り、ラブク国を後にした。
「さて、まずはロックね」
セスタールに到着した私はアルバが言っていた店を探し始める。
セスタールは先程までいたソロニーより規模が小さいようで、そのせいかほとんどの建物同士が密着している。
建物の作り自体はいいのだが、全体的にごちゃごちゃした感じの街だった。
魔界にも似た感じの街はあるが、人の世界でこういう街を見るのは初めてだ。
だから少し新鮮だったりする。
ただ、時刻は夕方になろうとしていた。
さっさとロックを見つけないと店を閉められてしまうだろう。
そうならないうちに店を見つけなくては。
「場所を尋ねたいのだけど、ロックという店を知っているかしら?」
私は地面に短剣やナイフを広げていた商人に声をかけてみた。
「ロック?ああ、ヒルダさんのとこか。それなら東門から広場に向かう通りにある。大きい店ではないが、通りに面しているからすぐにわかるだろう」
「そう。ありがとう」
かまわないよとばかりに片手を上げて挨拶する商人に礼を言うと、私は広場へと向かった。
時間が時間だからか、広場にはそれほど人がいなく、代わりに酒場と思われる建物から料理のいい香りと賑やかな声が聞こえてきた。
そんな酒場を横目で見ながら広場を抜け、東の通りを進む。
広場に続く道なだけあって道幅は広く、様々な店が軒を並べていた。
そんな中に件のロックもあった。
「ここが…」
看板に古めかしい文字で『ロック』と書かれているので間違いないだろう。
店の扉は閉まっているが、閉店している感じではないのでまだ営業中なはず。
私は店の扉に手をかけると鍵はかかっておらず、普通に扉が開いた。
よかった、まだ営業中だった。
内心ホッとしながら私は店内に入る。
武具屋なだけあって、壁には様々な武器がかけられ、入り口脇には見事な鎧が飾られていた。
「いらっしゃい」
そんな声がした方を見ると、無表情なミノタウロスがこちらを見ていた。
この人が店主のヒルダらしい。
アルバの話では結構な頑固者らしいが、受け取った書類を見せれば話くらいはしてくれるはず。
私は商品である武具には目もくれず、彼女のもとへ歩み寄る。
「少し話を訊きたいの。いいかしら?」
私が声をかけると、ヒルダは怪訝そうな顔になる。
「うちは武具屋だ。買う気がないならさっさと帰んな。小娘の相手をするほどあたしは暇じゃないんだ」
つれない態度だ。
まあ、予想してはいたから別にいいのだが。
「買い物をしに来たわけではない点については謝るわ。それと、これを」
アルバからの紹介状を懐から取り出してヒルダに渡す。
「これは…」
ヒルダは紹介状を開き、中の文面に目を通す。
大して長い文ではなかったらしく、すぐに顔を上げると彼女はため息をついた。
「あの男がこんな紹介状を書くとは、あんた何者だ?」
疲れた顔でヒルダはこちらを見る。
それに対し、私はフードを外して顔を出すと、軽く会釈する。
「初めまして、ヒルダさん。私はミリア。見て分かるかもしれないけど、サキュバスよ」
「ミリア、ね。あんたはあたしを知っているようだけど、一応自己紹介しようか。あたしはヒルダ。それとさんは付けなくていい。敬語は嫌いなんだ、よそよそしい感じがしてね」
「わかったわ。じゃあ、ヒルダ。あなたに訊きたいことがあるのだけど」
「ジオのことだろ?紹介状に書いてあるよ」
ヒルダはつまらなそうに紹介状をひらひらさせる。
どうやらアルバが気を利かせてくれたらしい。
「ええ、その通りよ。彼の、いえ、親子の行方を知らないかしら?」
「あいつの行方なら知ってるさ。うちで品を仕入れてここから北東にあるペースド国に行ったよ」
その発言にはさすがに軽いため息が出てしまう。
また国を越えたのか。
なんというか、張切りすぎではないだろうか。
「ペースド国ね…。やっぱり儲けるため?」
「そうだよ。ただ、なにもそこまでしなくてもいいだろうとあたしは思う」
それは私も同感だ。
これでは国巡りではないか。
「まあ、それだけ娘を思っているということでしょう。それで、詳しい行き先はどこかしら?」
「それを聞いてどうするんだい?」
「私は伝言を預かっているから、それを伝えに行くのよ」
クリスから伝言を頼まれた時は、ここまであちこちに行くことになるとは思わなかったが。
ところが私の言葉にヒルダは顔を険しくする。
「悪いことは言わない。ペースド国に行くのはやめときな」
「それはなぜ?」
「あの国はこの四つの国で唯一の反魔物派の国だからだ。当然、魔物は入国を禁止されている。入れば死刑だ。ジオ達は人だから問題ないが、あんたは違う。いくら伝言のためとはいえ、わざわざ命を賭けてまで
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