告白

「……」
 ルークはどうしたものかと困っていた。本日は昼上がりの日であり、ミーネの家で昼を食べる予定になっている。だからこそ、どんな顔をして会えばいいのか必死に頭を悩ませてここまで来たというのに、肝心のミーネはいつかの如く、ソファでお休み中だった。
 あの日は涎をたらしながら眠っていたが、今日はどういうわけか、手にシイタケらしきものを握ったまま眠りこけていた。
 そんな狐を前にして、ルークは盛大にため息をつくほかなかった。
「なんで俺はこんな小娘相手に頭を悩ませてるんだろうな……」
 ミーネの今の姿を見ていると、真剣に悩んでいる自分が馬鹿らしくなってくる。
 もう今日はこのまま帰ってもいいんじゃないかと頭が考え始めたころだ。不意に、ミーネが身じろぎをした。
「っ……」
 起きたのかと思ったが、どうやら寝返りを打っただけらしい。そのまま身体の向きを変えると、再び規則正しい寝息が聞こえてくる。
「んだよ、おどかすな」
 舌打ち混じりにルークが言いかけたところで、ミーネが被せるように呟いた。
「もぉ……ルークったら、エッチなんだからー……」
「おい」
 思わず寝言に突っ込んでいた。さすがに聞かなかったことにできる発言ではない。
 しかし、むにゃむにゃと唇を波打たせただけで、相変わらずミーネが起きる気配はなかった。
「この野郎……。本当にそういうことすんぞ」
 ミーネの夢の中のルークがどんなことをしているのか知らないが、そちらが勝手に人をスケベみたいに言うのなら、本当にそういうことをしてやろうかと思ってしまう。
 ちょっとした復讐心から、ルークはミーネの顔から身体へと目を移す。そして、それが失敗だった。ロングスカートから覗く健康的なふくらはぎや、服を押し上げつつ定期的に上下する胸が、そういう目で見た瞬間に妙な色気を放ってきた。
「っ……」
 相手は魔物、それもミーネだ。それはわかっているのに、理性がこれでもかと揺らされる。一人の女だと、頭が理解してしまいそうになる。
 そのまま十分も放置されたら色々とまずかっただろうが、幸いなことに目がうっすらと開き、狐の眠り姫は目を覚ました。
「ん……」
 普段のアホっぽさはどこへやら、やたらと艶めかしい声と色気を感じさせる仕草で、ミーネがゆっくりと身体を起こした。その拍子に顔がこちらに向き、目がばっちり合う。
「……」
 その瞬間、とろんとしていたミーネの目がぱっちり開き、獣の耳はぴんと立ち、顔が赤く染まっていった。
「あ、えと、あの、これは、ちょっと疲れちゃったから、横になってただけでっ。寝てたわけじゃなくて……」
「……」
 無言で見つめていると、ミーネはぷるぷると震え始めた。
「えと、その、すぐにお昼の準備するからっ!」
 そう言って、だっと台所に逃げていった。
「いや、別に昼寝してたっていいんだけどな……」
 なにも、ルークが来る時間に合わせて昼を用意していなくてもまったく問題ない。むしろ、食事の準備ができている状態で迎えられると、なんというか仲睦まじい夫婦のようで、逆に恥ずかしい。
 そんな考えを追い払うように首を振ってソファに座ると、ミーネの温もりがもろに残っていて思わず仏頂面になる。
 そこへなぜかミーネがバツが悪そうに戻ってきた。
「あ、あのね、ルーク」
「……なんだよ」
 直感的にろくなことじゃないと感じたルークが気だるそうに顔を向けると、ミーネはものすごく申し訳なさそうな顔をしていた。
「その……先にお風呂入ってきても、いい……?」
 まったく脈絡のない言葉が飛んできて、一瞬にしてルークは頭が思考停止寸前に追いやられた。なぜ昼の準備より先に風呂なのかがまったく理解できない。そしてそれをルークに尋ねる理由もない。
「あー……。それ、俺の許可が必要か?」
「だって……ルークのお腹が空いてたら悪いかなって……」
 そう思うなら、昼寝なんかしてないで風呂に入ればいいだろうと思ったが、口にするのはやめておいた。
「腹が減ってる状態には慣れてるから別に気にしなくていい。大体、風呂入るのも飯作るのもお前がやることだろ。好きにしていいぞ」
 そう言ってやると、狐の耳がピンと立った。
「じゃ、じゃあ、先にお風呂入ってくるねっ」
 申し訳ないとでも思っているのか、それとも早く入りたいのか、ミーネは逃げるように去っていった。
「ったく……」
 頭をかきながらソファに身体を預けると、すぐに睡魔がやってくる。だが今日は昼を食べてないし、ミーネもすぐに上がってくるだろうから、ちょっと戯れているうちに試合は終了するだろう。そう思っていたのだが。
「おせぇ……」
 それから待つこと一時間近く。なぜかミーネは風呂から上がってこなかった。おかげで、睡魔が理不尽なまでの強さを発揮し、今にも夢の世界に意識が送られて
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