目を開けるとそこには見慣れた天井があった。
目覚めた私が寝ていたのは二人用のダブルベッド。
ただ、寝ているのは私だけなので広く感じる。
本当なら夫と一緒に使うものだが生憎と私は独り身だ。
夫が欲しいという気持ちがなくもないが、別にいなくてもあまり困ってない。
「さてと」
体を起こして伸びをするとベッドから降りた。
台所に行き、朝食の用意をする。
朝はそんなに食べられないので、目玉焼きと野菜のスープというシンプルなもの。
「いただきます」
そう言って私はスープに口をつける。
この前味付けが薄いと言われたので、最近はもう少し味付けを濃くしてみた。
調味料をいつもより多めに入れたスープは確実に味が濃くなっていたが、これなら嫌というほどでもない。
でもそれはあくまで自分の感想。
やはり誰か他の人から感想を聞かないとわからない。
「レナに味をみてもらおうかしら?」
料理を始めたのも実はレナの影響だったりする。あんなふうにおいしい料理を作りたいと思ったのだ。
だからレナは料理の師だと勝手に思っているので、味見をしてもらうのはいい考えかもしれない。
ついでにハンス君にも訊いてみよう。
レナの料理とどっちがおいしい?と訊いてみるのもおもしろそう。
きっと困り顔で顔を赤くすることだろう。
まあ、それでも最終的にはレナの方と答えるはず。
それを想像して笑ってしまう。
よし、今夜は久しぶりに「狐の尻尾」に行こう。
夜の予定はそれでいいとして、今日の散歩はどこに行こうか。
景色をみたい気分ではないし、おいしい料理を食べたいわけでもない。
「久しぶりに夫探しでもしようかしら?」
ここ最近、というか最後に夫探しをしたのがいつかも覚えていないが、気分転換にもなるし、今日はそうしよう。
そうなるとどこに探しに行くかだ。
「人の多そうなところ…」
朝食を済ませた私は世界地図を眺め、人がいそうなところを探す。
そして目についたのは四つの国がお互いすぐ近くにある地域。
よし、ここにしよう。
目的地を決めた私は転移魔法で四つの国の一つへと向かったのだった。
私が向かったのはトーハという名の国で、この国は親魔物派のようだ。
その証拠に私が来た街の入り口では普通の兵士とサラマンダーが通行人をチェックしていた。
入り口に列を作っている人達の最後尾に私も並ぶ。
ちなみに今は露出なんて無いに等しい服を着ている。
それだけでなく、その上からローブを身につけ、フードを目深にかぶって素顔があまり見えないようにもしている。
こうでもしないとリリムの私は人目を引き過ぎて色々大変なのだ。
そんなわけで人目対策はきちんとした私だったが少しやりすぎたらしい。
入り口を通過しようとして兵士に呼び止められてしまった。
「そこのお前。止まれ」
槍で行く手を遮られてしまい、私は足を止める。
「この街は現在祭りでな。怪しい者は入れるなと命令されている。すまないが顔を見せてもらいたい」
御苦労さまなことで。
仕事熱心な兵士に言われ、私は仕方なくフードを外し、顔を晒した。
途端に聞こえる感嘆の声や口笛。
間近で見た兵士に至っては口を半開きでポカンとしている。
ちょっと間抜けで可愛らしい。
その顔を眺めているのも悪くないが後ろにはまだ列がある。
「これでいいかしら?」
ほとんど放心状態の兵士は声をかけられて我に返ったようだ。
「あ、はい…。どうぞ…」
急に敬語になり、熱っぽい目で見ながら通してくれた。
私は一礼してフードをかぶると街に入る。
祭りというだけあって入り口でさえけっこうな人がいる。
きっと祭りということで近くの町や村からも人が集まっているのだろう。
これだけ人が多ければ私の夫になってくれそうな人がいるかもしれない。
少し期待してもよさそう。
軽く笑いながらそんなことを考えて、ふと足を止める。
そういえばこういう人の多い場所での夫探しってどうやるんだったかしら?
あまりにも久しぶりなせいか、探し方をすっかり忘れてしまったみたいだ。
目の前の光景には自分の目的の場所へと向かう人々。
その中には当然男だっている。
背の高い人、若くやる気に充ち溢れている人、体つきの良い人と、いくらでもいるのだが、なぜかみんな景色に見える。
人という景色の中に私が一人ぽつんと立っているだけ。
そんなふうに感じる。
精をもらう時やたまたま出会った人ならちゃんと男として認識できるが、こういう大勢の人がいるところだとどうも一人一人を男として認識できない。
「ひょっとして病気かしら?」
他の姉妹と比べて性欲が低いのは一応自覚している。
もしかしたらそのせいかもしれない。
でも、まぁいいか。
目に映る男がみんな景色に見えるなら、「景色」ではなく「男」として映る人を探せばいいだけのこと。
祭りを見物するついでに良さそうな人が
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