ミラの乙女な日々

 他愛のない会話をするだけで心が落ち着くのはなぜだろう。
 隣りを並んで歩くだけで嬉しくて、つい笑みがこぼれてしまうのは―?
 時々、傍にいてほしいと思うのは―?
 それはきっと、一つの感情がそうさせるから。
 

 
 それが特別な出会いだったとはミラは思っていない。単に、同じ隊長に問題児を引き取ってほしいと泣きつかれたからだ。女隊長として名を馳せているミラなら、その問題児も言うことを聞くはずだからというのがその隊長の言い分だった。
 問題児を押し付けたい魂胆が丸わかりだったが、ミラは特に条件を付けるでもなくその人物を引き取った。
 そして後日。件の問題児と対面したミラが真っ先に思ったことは、本当に騎士なのかという疑問だった。
 制服はしっかり着ているし、だらしなく立っているわけでもない。ただ普通に立っているだけなのに、その目つきの悪さが全てを台無しにしていた。こう言っては悪いが、騎士の制服を着た山賊といった方がしっくりきてしまう。
 手元の資料に目を向けながら、ミラは改めてその人物を見た。
「さて、始めようか。5番隊所属のルークで間違いないな?」
「はい。その通り……です」
 さほど緊張しているようには見えないが、返事がぎこちなかったのはなぜだろう。
 少し疑問に思ったが、それは口にせずに続ける。
「既に話は聞いているとは思うが、本日をもってお前は我が隊へ所属変更となる。とはいっても隊員は顔見知りだろうから、その点に関しては問題ないだろう。私についてはなにか知っているか?」
「まあ、それなりには」
「では、話はこれで終わりだ。長々と話すのは好きではないのでな。お前から質問はあるか?」
 何度もやってきた行為なので、ほとんど事務的に進めていき、最後の質問時間になった。
 この時、ミラが見てきた男は半分がミラについての個人的な質問をし、もう半分は特にないと言う。後者の場合はそのまま解散、前者の場合は高確率で威圧を込めた口頭注意となる。さて、この男はどうするのかと眺めていると、ルークはぽつりと言った。
「俺の経歴についての言及は?」
「……は?」
 思わず間抜けな声が出ていた。
「いや、俺の経歴についてなにも聞かないのか……じゃなくて、聞かないんですか」
「あ、ああ。そういうことか」
 そういえば、ルークがどんな人物なのか軽く尋ねた際にあれこれと言われた気がする。よほど不満があったのか、それはもうあれこれと言うので、ミラはほとんど聞き流したのだった。
 あの日のことを思い出しつつ、一つ咳払いをする。
「生憎と、私は自分で判断したがる性分でな。他人がお前につけた評価などどうでもいい。よって、お前が過去になにをしでかしていようと、言及するつもりはない」
 今度はルークが戸惑ったような顔になった。
「はあ……そうですか」
「ああ。そういうわけだから、今後は我が隊で仕事に励むように」
 いつものお決まり文句を告げて、ルークとの初対面は終わった。この時は変わった男という感想しかなかった。


 それからしばらくは何もなかった。ある日、珍しく国を騒がせる大火事が発生した。原因は恨みからくる放火だと後に判明したが、当時は火を消すだけで精一杯だったのを覚えている。
 現場は火の熱でその辺り一帯の温度が高く、大声で指示を出しているだけで喉が焼けるようだった。あちこちから悲鳴だの怒号だのが聞こえるなか、ある報告がミラに届いた。逃げ遅れた子がいるというのだ。その報を聞いた時、ミラは判断に迷った。
 人がいるなら助けなくてはならない。しかし、目の前の火事は近隣にまで飛び火し、勢いは衰えそうにない。この中でまだ生存しているのか怪しい者のために、隊員を危険に晒すべきなのか。
 咄嗟にどんな決断を下すかミラが悩んでいた時だ。
「おいルーク、正気か!?」
「安心しろ、ばっちり正気だ」
 片方は緊迫した声、もう片方はこの状況がわかっていないんじゃないかと思えるくらいにのん気な声だった。ミラが目を向けると、キースとルークが向かい合って言い合いをしていた。
「いいや、考え直せ! どう見たって人が入っていける状態じゃない!」
「そんな状態のあの中に、ガキがいるかもしれないんだろ? だったらいくしかねーだろ」
 言った同時に、ルークは手にしていたバケツを掲げて頭から水をかぶる。それを見て、ルークがなにをしようとしているのか、ミラも理解した。
「ルーク!」
 慌てて足早に近づくと、キースはしまったという顔になったが、ルークは表情一つ変えずにこちらを見ていた。
「水をかぶっていたようだが、なにをするつもりだ?」
「はっ。まだあの中に逃げ遅れた子供がいるようなので、ただちに調査に向かうところです」
 律儀に敬礼し、しっかり報告するルーク。自分が勝手なことをしているとはっきり理
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