ようやく空が明るくなり始めた早朝。鳥もまださえずらない時間に、ミーネは慌ただしく自分の部屋を動き回っていた。
「えーと、お財布は……」
引き出しを開け、目的の物を見つけるとテーブルに置く。そこには他にローブや手提げバッグが並べられていた。
それらを見て一つ頷くと、ミーネはタンスの中から服を取り出す。ルークに選んでもらったものだ。
着替えをすませ、ローブを身に付け、バッグを持つ。その状態で鏡を見るといかにも旅人といった装いの自分がいた。
「うん、これでよし」
ばっちり準備を整えたミーネは足早に玄関へと向かう。お出かけ先はもちろんルークのいるあの町である。
この前会った謎の人? にもっと頑張るように言われ、ミーネなりにやる気にはなった。そこまではいいのだが、肝心のルークがいなければ頑張りようがなかった。そのルークも最近は忙しいのか、家に来るのが遅いのだ。結果、行き先のないやる気は不完全燃焼を起こし、胸がもやもやする日々が続いていた。
そんなある日、ふと思いついたのだ。ルークが来ないなら、自分が会いに行ってしまえばいいと。これならルークが来るのを待つ必要はないし、ミーネも長い時間ルークといられて言うことなしである。
そして今日、思いついた名案を実行に移したのだった。
家を出ると早朝の森の中を歩いていく。まだ辺りは薄暗かったが、既に何年もここに住んでいるミーネには自分の庭のようなもので、迷う素振りすらなく順調に進んで行った。
秋も深まっていることもあって朝の空気は少し冷たかったのだが、気分が絶賛高揚中のミーネはそんなことはお構いなしだった。もう頭の中は今日の予定でいっぱいだったのだ。
「えーと、町が近くなったら人化の術を使って、それから騎士団のとこに行って……」
行程を口にしているうちにミーネの顔がどんどん嬉しそうなものになっていく。ローブの下では、狐の尻尾がぶんぶんと振られていたのだった。
朝礼が終わり、騎士団員達がぞろぞろと担当の地域の見回りに出かけて行く。本来ならルークもそこに混じって町へと出て行くのだが、今日はなぜかミラに隊長室に来るように言われ、一人静かな廊下を歩いていた。
「なんかしたっけか……」
朝から呼び出しという時点でろくなことにならなそうだったが、だからといって無視すればもれなく鉄拳がプレゼントされるに違いない。まあ、無視しなくても呼び出された時点でプレゼントされる可能性は濃厚なのだが。
しかし、ここ最近で特に何かをやらかした記憶はなかった。もしかしたらミラに殴られた拍子に記憶がすっぽ抜けたのかもしれない。
そんなことを考えて首を捻っているうちにミラの部屋に到着し、ノックするとすぐに「入れ」という返事があった。
「あ? 普通だな……」
ミラの声は普段通りのもので、どうも怒っている感じではなかった。
てっきり説教と体罰のフルコースだと思っていたルークは余計に不思議に思いながらも扉を開け、手入れの行き届いた部屋に入った。
「俺にお話があるみたいだが、なんだ?」
「来たか。まあ座れ。長くなる話ではないが、立たせておくのは悪いからな」
そういうことならと、ルークは一人用のソファにふんぞり返った。
「で、朝っぱらから呼び出された理由は?」
「なんだと思う?」
手を止めて書類から顔を上げたミラが当ててみろとばかりにそんなことを言う。
「仕事をさぼってのデートのお誘いとかだったら喜んで受けるぞ」
言ってみてから、我ながら酷い冗談だと思った。今日はいまいち調子がよくないらしい。
だが、なぜかミラは「なっ……」と呻き、続けて口元に手を当てて真剣に考え込むような顔になったではないか。
「おい、冗談だぞ? まさかこれくらいで説教とかないよな?」
あの顔はどんな罰を与えるか考えている顔だ。
そう判断したルークは慌てて弁解するが、ミラからの返事はない。
「お、おい隊長。なんとか言えって。俺が呼ばれた本当の理由はなんなんだよ」
「……ん? ああ、それか。実は急な雑務が入ってしまってな。すまないが、今日の見回りは同行できそうにない」
そう言ったミラは少し申し訳なさそうだった。
「へえ。ま、それについては了解だ。しかし、隊長に雑務を回せるようなやつがいたか?」
ルークが知る限り、そんなことをできるような人物はいない。しかし、現実的にこうしてミラに仕事が回ってきていることだし、実はすごい人がいるらしい。
「正確には回ってきたのではなく、ぶんどってきたが正しいな」
やはりミラはミラだった。ルークの予想を完全にぶち壊す発言をさらっと言ってきたではないか。
「なんだよ隊長。よその仕事を取ってくるなんて、実は仕事熱心なのか?」
「我が隊と無関係なら私もこんなことはしないさ。だが、間接的に関わってくると
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