ミーネのせいで多大な被害を被った翌日。制服に着替えたルークが寝室から出ると、共同部屋ではなぜか荷物をまとめているキースがいた。
「何してんだキース。こんな朝っぱらから夜逃げか?」
「朝に逃げるのに、夜逃げはおかしくないか?」
朝から冴えわたるルークの軽口にえらくまともな疑問を返しつつ、キースはまとめ終えた荷物を手にした。
「で、実際にお前は何してんだ?」
「忘れたのか? 今日から俺は隣り町に出張だよ」
苦笑とともに言われて思い出した。国お抱えの騎士団なだけあって、その活動範囲は文字通り国全体に及ぶ。基本的には大きな町に本部を置いて活動するのだが、隣り町のように規模の小さい場所には近隣から派遣という形で治安の維持を図っているのだ。そして、派遣される騎士は一月交代制となっている。その順番がキースに回ってきたというわけだ。
「ああ、そういえばそうだったな。俺がいなくて寂しくても泣くなよ?」
「それはこっちの台詞だ。俺がいないからって、見回りをサボるなよ?」
キースの切り返しにルークは肩をすくめてみせる。
「心外だな。俺、今までサボったことなんて一度もないぞ。つーか、お前がいないとなると、俺は誰と組むんだ?」
別に見回り自体はルーク一人でも問題ないのだが、ルークは仕事が午前のみとなっているため、キースがいないと午後からルーク達の担当箇所を見回る者がいなくなってしまう。
「ああ、それなら隊長が手を打っておくと言っていたな。大方、出張帰りのヤツと組むんじゃないか?」
「隊長がそう言ったなら大丈夫そうだな。んじゃ、こっちは任せて、せいぜい楽しんでこいよ」
「旅行に行くんじゃないんだがな……」
苦笑しながらキースは「じゃ、一月後な」と言い残し、一足先に部屋から出て行った。
ルークも続けて部屋を出て、朝礼に参加すべく歩き出した。
キースを含む出張組がいなくなることで組み合わせの調整があったこと以外は、特に注意事項もなく朝礼が終わり、同僚達とともに廊下を歩いていく。そこに凛とした声が響いた。
「ルーク!」
声の方を見れば、本部の出口脇に腕を組んで立っているミラがいた。ルークは流れから外れてそちらに歩いていく。
「おー、隊長。ちょうどよかった。キースが出張でいなくなったが、代わりに組むヤツはどうなってるんだ?」
「ああ、それは私だ」
さらりと言われた言葉はちょっとよく分からなかった。
「は? 悪い、もう一回言ってくれるか?」
「お前と組むのは目の前にいる私だと言っている」
ミラが少しむっとした様子でもう一度言ってくる。これはまずい。対応を間違えると鉄拳が飛んでくる空気だ。それを敏感に感じ取ったルークはミラの機嫌を損ねないように当然の疑問を返した。
「いや、隊長は隊長の仕事があるだろ? 見回りなんかしてる暇あるのかよ?」
「そんなものは早朝の時点で半分以上片付けておいた。後は見回りが終わってからで問題ない。なにより、お前をキース以外の者に任せるわけにはいかないからな。それとも、私では不満か?」
目が笑っていなかった。それに気づいたルークはぶんぶん首を振る。
「いーや、そんなわけない。さて、見回りに行くか」
逃げるように歩き出すと「まったく……」と言いながらミラもついてくる。
こうして始まったミラとの見回りだが、ミラと並んで歩くというのはなんだか新鮮だった。恐らく、すれ違う人の大半がミラに挨拶をするのが理由だろう。ミラもそれに笑顔で答えていく。
「すげーな。さすが隊長。人望が厚いこって」
折り返し地点に差し掛かったところでぼやくと、ミラは小さく笑った。
「別に、大したことでもないだろう。私も元は一団員として見回りをしていたわけだしな。その頃からよく挨拶はされたよ。まあ、出身の影響もあるだろうが」
貴族の出身ということをミラは嫌がっている。そのことについて話すとミラの機嫌を損ねるので、ミラに貴族に関する話題を振らないことは騎士団員の間で暗黙の了解となっているが、なぜかルークだけはそれを口にしても怒られた試しがない。予想でしかないが、敬語も使わない不良団員なので、呆れて怒る気にもならないのだろう。
だから、遠慮なくそのことを口にした。
「貴族だから、ねぇ。育ちの悪い俺には理解しかねるな。隊長から見てどうだ? 俺みたいに敬語を使おうとしない人間を見ると、不遜だ! とか思うのか?」
「まともな貴族ならそう思うだろうな。額に青筋浮かべて怒鳴るかもしれん。だが、私は違う。騎士団に入った時点で貴族などという肩書きは捨てたつもりだからな。だから、お前のことは好ましく思っているよ」
微笑みながらそう言ったミラだったが「あ……」と呟いたかと思うと、瞬時に顔を真っ赤にした。
「ち、違うぞっ! 今のはなしだ! なし!」
「あ? なんだよ、肩
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