「実にいい天気だな、航海士よ」
「船長、いい加減に僕の名前覚えて下さいよ」
「悪いな、俺は四文字以上の名前は覚えられない体質なんだ」
「単に覚える気がないだけでしょう! なんで航海士って単語は覚えられるのに、人の名前は覚えないんですか!」
「そんなに俺に名前を覚えてもらいたいのか? 航海士、お前ちょっと気持ち悪いぞ」
「ぶっ飛ばすぞ」
その時、航海士の腹が間抜けな音を立てた。
「船長、お腹がすきました」
「奇遇だな。俺もだ」
「いや、俺もだじゃなくて。腹減ったなら何か作って下さいよ」
「それはコックに頼め」
「コックがいないから船長に言ってるんじゃないですか!」
「なぜいないんだ?」
「いなくなったんですよ! 僕達が美味しくいただくはずの食事を作るコックが逆に美味しくいただかれたからです!」
「そういえばそうだったな。あれはどう見ても美味しそうじゃなかったが、実際どうなんだ?」
「知りませんよ! お持ち帰りしたセルキーに聞いて下さい!」
「相手はセルキーだったか?」
「そうですよ! 船の横にひょっこり顔を出したセルキーを見て、船長がセルキーはツンデレらしいぞなんて言うからです!」
「言っただけだ。それを聞いたコックがツンデレ万歳! とか言いながら勝手に海に飛び込んで行っただけだぞ。俺のせいじゃない」
「どう考えてもあんたのせいでしょうが! 大体、この船に乗っていた連中は弱すぎです!」
「何を言っている。あいつらは数々の修羅場をくぐり抜けてきた猛者達だぞ。その証拠に今日まで敵船との戦いでは無敗だ」
「意思が弱いって言ってるんですよ! 魔物には完敗してるじゃないですか! おかげで、この船に残っているのは僕と船長だけですよ!」
「調子に乗って魔物のいる海に来たのが失敗だったな。平均してEカップ以上とは、凄まじい戦闘力だ。おかげで、船員達が我先にと海に飛び込んで行ったな」
「単に胸が好きなだけじゃないですか! どこが猛者ですか! これじゃ、単なるおっぱい好き集団ですよ!」
「おっぱいを嫌いな男はいない。よって、あいつらを責める権利は誰にもない」
「何ちょっといいこと言ったみたいな顔してんですか! 台詞の前半部分だけで台無しですよ!」
「では聞くが航海士よ、お前はおっぱいが嫌いなのか?」
「……大好きです」
「この話はここまでにしよう。そろそろ不毛だ。それで、なんの話だったか」
「食事の話です」
「おお、そうだったな。しかし、この船に食糧は残ってたか?」
「ないですね。船員が減っていく度に、食いぶちが減ったから、今日から一食の量が増えるぞと船長がのたまったからです」
「過去のことは海に流せ、航海士よ」
「じゃあ、流す代わりに食事を用意して下さい」
「仕方ないな。どれ、久しぶりに釣りでもするか」
「お願いします。できれば大物を」
「任せておけ。今日はでかいのが釣れる気がする。ちょっとホオジロザメでも一本釣りするとしよう」
「そんなの釣れるわけないじゃないですか! 食事にするどころか、逆に食事にされますよ!」
「俺は今日はフカヒレの気分だ。異論は認めない」
「そんなもん食べたことないでしょうが! もういいです! 僕が釣りますから、船長は進路を見てて下さい!」
「わかった、サメは諦める。では航海士、釣りは任せよう。食べたいものも、クジラの刺身に譲歩してやろう」
「そんな傲慢な譲歩があってたまるか! いいから船長は進路を見てて下さい!」
ぷんぷんしながら航海士は倉庫から釣り竿を持ってくると、釣り針を海に投げ入れた。
「まったく、あの船長は……っておおっ!? でかい! いきなり大物か!?」
「ああーん
#9829; 釣られちゃった〜♪ 今度はお兄さんの股の針で私を刺して
#9829;」
海面から現れたのは魚ではなくメロウだった。釣り針は彼女の水着に引っ掛かっている。
「船長、言葉を話す半人半魚が釣れました」
「よし、リリースだ」
「了解」
素直に指示に従い、航海士は糸をハサミで切った。
「ちょっと〜! 私といいことしましょうよ〜!」
「戦闘力Dか。悪くないが、俺達の敵ではないな」
「ですね。最低でもE以上でないと」
その後、何度も釣りを試みる航海士だったが、まったく釣れる気配はなかった。
「船長、この辺りではまったく釣れる気がしないんですが」
「ふむ、仕方ない。ここはやはりプランBにしよう。駄目だった場合は、プランCも検討する」
「いや、待って下さい。僕、プランBもCも聞いてないですよ」
「プランBはサメだ」
「だから、そんなもん釣れるわけないでしょうが! プランCはクジラですか!? だったら最初から検討の余地なんかないですからね!」
「釣れない魚より釣れるクジラだ。贅沢を言うな」
「クジラ自体釣れないって言ってんですよ! 少しは
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