助けてくれた少女は魔物だった

「ふぁ〜……」
 あまりにも退屈で欠伸が出た。
 それに釣られたのか、隣りを歩く同僚も続けて欠伸だ。
「おいルーク、お前のせいで欠伸が出たぞ」
「俺のせいにすんな。お前が勝手に欠伸をしたんだろ」
「そうは言うけどな、欠伸って移るものらしいぞ」
 だからお前のせいだと目で訴えてくる同僚のキースに対して、ルークは肩をすくめてみせた。
 国のお抱え騎士団に所属するルークとキースの二人は現在、市中を見回り中だった。見回りといってもここは小さな島国で、仲の悪い隣国の存在もないため、実に平和だ。国は反魔物派ではあるが、肝心の魔物は何十年も前に全て追い出したとのことで、島にいるのは人間だけ。魔物がいないから教団の存在もなく、争いの元になる要素は微塵もない。おかげで、小さないざこざがたまにあるくらいで、市中の見回りなんて仕事はただ退屈なだけなのだ。
「じゃあ、欠伸が出ないような話でもしてくれ」
「その必要はないな。お前と見回りをしていると、俺は退屈しない」
 その時、向かいから若い女性がやってきた。手にした袋からは野菜が覗いていたので、買い物帰りだろう。
 その女性はルーク達が歩いてくることに気づくと足を止め、ルークを見てぎょっとした表情になり、さっと道の端に避けてそそくさと素通りしていった。
「……」
「……」
 少しすると、顔を背けたキースから忍び笑いが聞こえてきた。そして、すぐに声を上げて笑いだす。
「……人を笑い者にするのは騎士としてどうなんだよ」
「悪い、けど、仕方ないだろ。今すれ違った人の反応を見たらついな……!」
 腹が痛いとか言いながらまだ笑っている時点で、悪いなんてちっとも思っていないに違いない。もっとも、キースに限らず、この反応は慣れているので今更腹が立つこともないのだが。
「いや、本当に似合わないよな。お前の顔に騎士の格好は」
「はいはい、どうせ俺は傭兵顔だよ」
 自分でも理解しているが、常に睨んでいるかのような鋭い目つきなのだ。もちろんルーク自身はそんなつもりなどまったくないのだが、見ず知らずの人にはガラが悪く映るようで、先程のようにルークが一方的に威圧した感じで道を譲られることが多い。
 おかげで、騎士団の制服を着用しているのにも関わらず、陰では酷い言われ方をしていることも知っている。傭兵や戦士なんて呼び方はまだ良い方で、酷いものになると山賊、チンピラ、似非騎士、人でなし……。
 平和ボケしているとはいえ、仮にも国を守る騎士に山賊はないだろと思う。
「まあ、そういうなよ。ガラと態度が悪いことを除けば、お前も立派な騎士だって」
「フォローする気ないだろ。目が笑ってるぞ」
 ルークとは対照的に、キースは常に爽やかな笑顔を浮かべている青年だ。顔立ちもまあまあ整っているおかげで、かなり騎士らしく見える。そんなキースと並んで歩いているものだから、他人から見ればかなりちぐはぐなコンビだ。
「お前みたいに睨んだ方がよかったか?」
「アホ言ってないで行くぞ。町中で堂々とさぼってたなんて隊長に知れてみろ。恐怖の鉄拳制裁だ」
「それはやばいな。下手したら頭の形が変わる」
「そういうこった。ほら、行くぞ」
 おふざけはここまでにしようとして歩きかけた時だ。足を向けた先の露店が並ぶ通りから怒声が聞こえた。
「ど、泥棒! 誰か捕まえてくれ!」
 反射的にルークは走り出していた。前方では慌てた様子の二人組が近くを通りかかった数人の旅人から馬を奪っているところが視界に入る。
 それを見て軽く舌打ちすると、ルークは露店の傍に佇む馬に目を付け、飛び乗った。
「え? あ、ちょっと!」
「悪い、ちょっと借りてく。賃料はあいつに請求してくれ」
 慌てた様子の店主にそう告げると、ルークはキースを指差した。
「おいルーク!」
「ちょっと捕まえてくる。後は頼むわ」
 ルークに遅れて追いついたキースに軽く手を上げてみせると、すぐに泥棒二人の後を追う。
「あの馬鹿。だから山賊なんて言われるんだよ……」
 友人の呟きは当然ルークには聞こえなかった。


 泥棒二人は町を出て東へと逃亡していた。
 この先は見通しのいい平原だが、少し進むと森がある。二人はそこへ逃げ込むつもりらしく、街道を外れていく。そして、少しも速度を緩めることなく森へと突き進んで行った。
 それを後ろから追っていたルークも躊躇うことなく森へ飛び込む。ここまで追っておいて逃げられましたでは騎士団の沽券に関わる。
 森は鬱蒼としていて薄暗かったが、追う相手が二人いることもあって見失うことはなかった。
 森の中での追跡劇を続けているうちに、一人の泥棒が乗っている馬の速度が急に落ちてきた。どうやら体力の限界が近いらしい。
 好都合だとルークが意識をそちらに向けた時だ。やけに近くで馬蹄の音が聞こえた。続けて脇腹
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