おまけ

 リックはため息を吐いた。
 現在の時刻は夜の九時を過ぎたところだ。
 取りたてて変わったこともなく、無事に仕事を終えて一日が終わろうとしている。それだけなら、リックもため息を零したりはしなかっただろう。
 彼のため息の理由は今の状況にあった。
 リックがいるのは風呂場だ。これがなかなか落ちない風呂場のシミと格闘しているなんて理由だったらまだいい。だが残念なことに、風呂場にはシミなんて一つもなかった。
 リックがため息を漏らさざるを得ない理由は、二人の妻が当然のように一緒に風呂場にいるからだった。
 風呂は一緒に入るという決まりがあるため、リックとしても駄目だとは言えないのである。もちろんこの提案が出た時には、リックも控えめにそこまでしなくてもいいのではと発言した。
「いいよね?」
「いいわよね?」
 当然、二人の笑っていない笑顔に押し切られたのは言うまでもないことである。
 そんなわけで、現在夫婦三人で入浴中だった。
 リックは妻二人によって真っ先に体をすみずみまで洗われ、一人湯舟に浸かっている。
 一方、クレアとリーンベルの妻二人は互いに体を洗っていた。正確には、クレアがリーンベルの背中を流している最中だ。お互いに金髪なこともあって、こうしていると仲の良い姉妹に見える。
 ヴァンパイアのクレアは水に濡れると大変なことになるのだが、薬に詳しいサバトに所属する魔物から、ヴァンパイアも普通に入浴できるようになる入浴剤を定期的に購入しているため、こうして問題なく風呂を楽しめている。
 リックとは既に夫婦になっているので、仮に大変なことになってもあまり問題はなかったりするのだが、それはクレアの乙女心に反するらしく、入浴剤はほとんど毎日使用している。
 一度、たまには使わなくてもいいじゃんとリーンベルが言い、リックもクレアもその時は素直に賛成したのだが、案の定クレアがすっかり発情し、ベッドまで我慢できずに風呂場で行為に及ぶこととなった。
 そこにリーンベルが「せっかくだからあれも使っちゃえ♪」と夫婦の果実を持ってきてクレアに食べさえた挙句、自分もぱくりと食べたものだからえらいことになった。
二人揃ってすっかりその気になってしまい「今夜は楽しいお風呂プレイ♪」だの、「あなた、早く抱いて♪」と迫られ、翌日の夕方まで妻二人に尽くすことになった。
 あれ以来、クレアは入浴剤をきちんと使うことに決めたらしく、今夜も湯舟は鮮やかな緑色となっている。
 体を沈めれば確かにリラックスできて気持ちいいのだが、全裸のクレアとリーンベルがすぐ横で体を洗っているせいで、せっかくの入浴剤の効果も半減している気がしてならない。それくらい、妻二人の裸は刺激が強かった。
「力加減はどう? ベル」
「うん、ばっちり。すごく気持ちいいよ。まあ、リックのアレには勝てないけど」
「アレに勝つのは無理よ。私達の一番敏感なところに最高にぴったりだし、そうでなくとも、匂いだけで意識がぼうっとしてくるもの」
 加えてこんな会話が交わされたのでは、入浴剤の効果などまるで実感できず、リックはなんとも言い難い気持ちになって聞いてないふりをするだけだ。
 もちろん二人の会話に上がっているリックのアレは、惜しげもなく晒されている妻達の裸を見た時点でしっかり戦闘態勢に入っている。
 リックはそれがばれないかと気が気ではなかった。クレアとリーンベルがたった今話題にしているものが、彼女達を喜ばせる状態になっていると知ったら、間違いなく求めてくるに違いないからだ。
 そうでなくとも、この入浴が終わればリックの部屋で夫婦の時間に突入である。
 二人を相手にしなければならないので、いくらインキュバスとなっていても体力も精も節約できる時には節約するというのがリックの考えだ。あくまでも考えであり、クレアやリーンベルから夜まで待てないと求められたら、わかりましたと応じてしまうので、あまり意味のないことであったが。
「それにしても、ベルは胸が大きいわよね。羨ましいわ」
「そうかな? 確かにクレアよりは大きいけど、魔物からしたら標準じゃない?」
「ベルが標準なら、私の胸は標準を下回ることになるじゃない。なんとか大きくできないかしら……」
 クレアは自分の胸の大きさに不満があるようだ。確かにリーンべルよりは小さいが、それでも一般的な人の女性よりは十分に大きい。夫のリックはもちろんそれを知っているので、「十分大きいと思うんだけどな……」と彼女達に聞こえないように呟いた。
「そんなに気になるならリックに聞いてみようよ。ねえリック」
 ぼそぼそと呟いているところにいきなり声をかけられ、リックの体がビクつく。
「は、はい! なんですか?」
「……なんでそんなに驚いてるの?」
 リーンべルに不思議そうに見つめられ、リックは慌
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