つい先程までは桃色だった空気が、一瞬にして灰色になった。少なくとも、リックはそう感じていた。
今さっきのクレアとの情事をリーンベルに見られていた。それが分かっただけで、リックの顔色が赤から青へと変わる。
「……どういう意味ですか?」
私の番と言い放ったリーンベルから目が離せない。
そのリーンベルは無言でクレアへと手を伸ばすと、驚くほど無造作に彼女をベッドの端へと押しやった。クレアの破瓜の血が白いシーツに幾つかの赤い染みを作る。
リックは驚いて声も出なかった。私の番と言った意味をようやく理解したのだ。
「えっと、まさか本気ではないですよね……?」
冗談だよ。リーンベルが笑顔でそう言ってくれるのを期待した。しかし、目の前のリーンベルはにこりともしなかった。それどころか、泣きそうな顔になってリックを見つめてきた。
その赤い瞳だけが、強い意思を示すように光を帯びている。
「……本気だよ」
リーンベルは帽子を取ってベッド脇の棚に乗せた。続けて、羽織っていたマントを脱ぎ、長い手袋を外していく。
「ちょ、リンベルさん!?」
リーンベルが身に纏っていたものを次々に脱ぎ始めるので、リックは制止しようと口を開きかける。しかし、リーンベルがロングブーツをするりと脱ぎ、すらりとした美脚を露わにすると、口からはどんな言葉も出てこなかった。
「……上と下、どっちからがいい?」
残るは上下の衣服だけとなったところで、頬を赤く染めながらリーンベルは少し上擦った声でそう尋ねてきた。リックがどちらから先に見たいか訊いているのだが、肝心のリックは口をぱくぱくさせるだけで、言葉も出ない様子だった。
リーンベルはリックから目を逸らすと、上着に手をかけて一息に脱ぎ捨てた。大きな二つの果実が解放されてぷるんと揺れ、リックは無意識のうちにそれを凝視してしまう。リックがそうしている間にも、リーンベルは最後のホットパンツを躊躇いがちに下ろした。
リックは思わず息を飲んだ。クレアの裸を見た時も綺麗だと思ったが、リーンベルの裸も負けていなかった。
真っ白な肌は傷やシミなど一つもなく、光り輝いているようだった。細い手足はすらりと伸びて、彼女がきちんと成熟していることを証明している。そんな彼女の体で最も目を惹くのはやはり見事な二つの乳房だ。見ただけでもその感触が分かるんじゃないかと思えるくらいの質量を誇り、その魅力を暴力的なまでに主張している。
完成された芸術のような裸体はリックの目を惹きつけて放さず、しっかりと目に焼き付いていく。
「……お父さん以外の男の人でわたしの裸を見たの、リックが初めてだよ。だから、その責任は取ってね……」
静かにベッドに上がると、リーンベルは四つん這いになってそろそろとリックに近づいていく。彼女の手足が動く度に、その巨乳がぷるんと揺れる。
覆い被さるように迫ってくるリーンベルを前にして、リックはようやく我に返った。
「ま、待って下さい! 僕にはクレアさんがいますし、大体、リンベルさんにここまでされるようなことしてませんよっ!?」
「ほんとはね、リックがクレアさんとくっつくのを見届けたら、わたしは帰るつもりだったんだ。でも、いざその時になったら、帰るなんてできなかった。だってそれは、リックを諦めることになるから」
ゆっくりとリックへ近寄りつつ、リーンベルの言葉は続いた。
「男の人からの贈り物って、リックがくれた百合の造花が初めてだったんだ……。だからわたし、本当に嬉しかったんだよ?」
リーンベルの唐突な告白で、昨日の彼女の様子に納得ができた。
納得できたが、今の状況は駄目だった。自分には想い人がいるのだ。しかも、つい先程肌を重ねたばかり。だから、ほとんど転がり落ちるようにベッドから逃げ出していた。
「だ、駄目です! いくらリンベルさんが好きだって言ってくれても、こんなの駄目です!」
猫に追われる鼠のように逃げ、寝室の壁を背にするリック。断じて肌を重ねるつもりはないと意思表示をしているつもりである。
しかし、そんな思いも虚しく、リーンベルもベッドから下りてリックにゆっくりと迫ってきた。彼女の直線上には立たないように、リックはずりずりと壁に沿って逃げる。
「好きなの! ねえ、リック。逃げないでよ……」
「駄目ですってば! いい子だから!」
「好きな人の前で裸になった魔物が、いい子でいられるわけないよ……」
完全に端へと追い詰められたリックの前に、リーンベルが迫る。
「リックがクレアさんのこと好きなのは分かってるよ。でも、そのクレアさんを正直にさせたのは、わたしだよ?」
「え……。じゃあ、クレアさんのあの変化はリンベルさんが……?」
リーンベルはこくりと頷いた。
「わたし達ダンピールの魔力はヴァンパイアから理性と思考力を
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録