リリムと終わらない物語 〜君想う声〜

どこまでも続く暗闇だった。
ミリアと出会うまではほとんど毎日のように見ていた夢。
彼女と別れてからはろくに眠れないせいか、こうして少しも休めない眠りに落ちると当然のように再来する。
後ろを見ても、前を見ても夜のような闇が広がっているだけ。
俺の歩んできた人生そのもの。
どれだけ進んでも、その先に光はない。
永遠に続く夜の道だ。
いつからこうなったのかはわからないが、これでいいと思っている。
俺には、太陽の光の下を歩く資格などないのだから。
それでも、思い出したように後ろを見た。
どれほどの距離が続いているかもわからない闇の向こうで、ミリアと過ごしていたあの頃だけは、俺の上にも太陽があったのではないか。
もう戻ることはできないが、それでも暗闇の向こうで確かにそれは存在するはずだ。
だから、もうそれが見えずとも十分だった。
笑って前を向く。
一度でも光の下にいられたというだけで、この先に進むことができる。
そして一歩を踏み出した。


「っ」
眩しさを感じて目を開けると、日の光が当たったステンドグラスが色鮮やかに輝いている。
それを見上げたところで首に痛みを感じ、小さく呻いた。
思わず首に手を当てようとするが、自分の今の状況を思い出して嘆息する。
両手両足が十字架に拘束されているのだ。
足元には今まで使っていた剣が供物の如く置かれている。
一昨日の昼にこの支部に到着し、昨日からこの状態だった。
どのような刑に処すか話し合うようだが、結論は決まっているのだから無駄なやり取りというものだろう。
目覚めた頭がつらつらとそんなことを考えていると、俺から見て正面に位置する扉が音を立てて開き、一人の男がするりと入ってきた。
男はこちらを見ると、そのまま真っ直ぐにやってくる。
見事な金髪を僅かに揺らし、翡翠のような目は強い意思を宿している。
それらを有する整った顔は誰が見ても平民ではないと一目でわかる。
実際、貴族の三男坊とのことだ。
変わらないな……。
久しぶりに見た親友に、そんな感想を抱いた。
「十字架に磔にされるのはどんな気分だ、グレン」
「首が痛いとだけ言っておこう」
目の前まで来た親友は笑ってやれやれとため息をついた。
「思ったより元気そうだな。急いで帰還した甲斐はあったようだ。こうしてお前と会話をする時間が取れたわけだしな」
「急いで帰還か……。ああ、そうか。俺を裁くのはやはりお前か、ライナス」
「わかっていたのか。私が執行者では不満か?」
そんなわけはないと首を振ってみせる。
「そんな気がしていた。俺に対する裁きは、お前が行うだろうとな……」
ライナスの顔から笑みが消え、真剣な面持ちになった。
「答えてくれ、グレン。なぜ裏切った?お前のことだ。魔物に魅了されたというわけではないだろう?」
そうではないとわかっている顔だった。
親友の妙な信頼に、口元が緩む。
ミリアという太陽にこれ以上ないくらいに魅了されているのだから、どう答えたものか。
「俺は、人形ではいたくないからだ」
「……どういう意味だ」
俺がはぐらかそうとしていると判断したのか、ライナスの声が険しくなる。
「指示を受け、その場に出向いて魔物を殺す。そこに俺達の意思はない。ただ、言われたことをこなすだけ。魔物を殺すという目的を果たすだけの存在。まるで操り人形だ。それが俺達勇者なのだと。それに気づいたから、俺は教団に背いた」
「確かに勇者の行動だけを見ればそれは事実だが、意思がないわけではないだろう。皆、人のために戦っている。それは私達個人の意思に違いないはずだ」
「なぜ戦う必要がある」
「わかっているだろう。魔物は邪悪な存在だと」
「それが、教団の欺瞞であるのにか?」
ライナスが驚いたように俺を見た。
疑問が確信に変わる。
「……その様子では、お前は知っていたようだな」
隠しようがないと悟ったのだろう。
ライナスは苦しそうに目を閉じた。
「ああ……。魔物の本質は教団に入った直後に教えられた」
「やはりそうか。では、教団側が勇者それぞれに魔物の本質を教えるか否かを判断しているわけか」
「そうなる。魔物の本質を知っても、勇者として行動できるかどうかで判断するのだろう。そして、お前は知るべきではないと判断された。私も、それが妥当な判断だと思う」
「よって俺はなにも知らないまま、魔物を殺し続ける人形になったというわけか。そしてお前は真実を知りながら、黙っていた」
ライナスの顔が辛そうに歪んだ。
「……隠していたことはすまないと思っている。私の判断は間違っていた。結果として、お前がこんなことになるのだからな」
「お前の判断を責めるつもりはない。真実を知ったら、俺は間違いなく勇者を辞めていただろうからな」
「やはりそうしたか」
苦しい判断だったことはわかる。
だから、親友を責める気には
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