リリムと終わらない物語 〜誰がために〜

目の前のフラスコには、鮮やかな緑色の液体が入っている。
そこに赤い液体を流し込むと、配分を間違えなければ混ざり合った二つの液体は青になるはずだった。
しかし、アタシの予定とは違い、フラスコの液体は黄色になってくれた。
見事と言いたくなるくらいの失敗である。
「あーもう!」
机の上に並んだ器具を乱暴に端に寄せると頭をかく。
さっきから調合を失敗してばかりだ。
中には貴重な素材を使ったものまで失敗し、凡ミスだと言い訳すること四回。
失敗する度にいらつきは増し、比例するように調合の成功率は下がっていく。
机の上に並んだフラスコや乳鉢を見ていると自分の失敗の証拠を見せつけられているようで、隣りの寝室に向かうと、ベッドに身を投げ出した。
「まったく、なんだっていうのよ……」
ここ最近、原因不明のいらつきが治まらない。
そのまま枕に八つ当たりをかまそうとしたところで、ベッド脇においてある小さな棚が目に止まる。
そこに置かれたガラスのショーケースには、シャーロットから貰ったミリアとお揃いの首飾りが安置されている。
それを見ると、口から勝手にため息がこぼれた。
ちらりと時計を確認すると、時間はまだ市場が開く前だ。
このまま調合を続けてもろくな結果にならなそうなので、さっさと頭を切り替えてベッドから下りた。
あんな納期が先の薬を作っている場合ではない。
優先すべきことは他にあるのだ。
片付けるのも面倒で、机の上のゴミと化した薬品群には目もくれず、アタシは最近頻繁に行く店に向かった。
転移魔法で目的地の近くに到着し、その店へ視線を向ける。
そこには準備中なる札が下げられていたが、お構いなしに扉に手をかけると、扉は抵抗もなく開いた。
取りつけられた鐘が鳴り、カウンターで朝から惚気ている夫婦が揃ってこちらを見る。
「あ、ルカさん。おはようございます。今日もですか?」
「ええ。悪いけど、いつも通り適当に二人分お願い」
「喜んで〜」
ここ最近ですっかり定番になってしまったらしく、アタシを見るなりレナはそう言って笑った。
カウンター席に着くと、ハンスがさっそくコーヒーとミルク、砂糖壷を運んできてアタシの前に置いた。
すっかり慣れた動きだなんて観察していると、そのまま奥へと引っこんでいく。
「あんたは準備しないの?」
レナが傍で微笑んでいるままなので尋ねてみると、幸せな夫婦生活を送っている妖狐は花のように笑った。
「ふふ、やっぱり気づいていませんでしか。実は、夫もここ最近は私のと遜色ないくらいに料理を作れるようになったんです。だから、今までルカさんが持っていってる料理も、夫が作ってたんですよ?」
「え、そうだったの?」
まったく気づかなかっただけに、少し驚いてしまう。
アタシがここに来た時はまだ凝った料理はできないらしかったが、人間やればできるものらしい。
「ええ、そんなわけでこうしてお任せしてるんです。ちゃんとおいしく作れているでしょう?」
「……なんか狐につまれた気分だわ」
ちょっとした悔しさからそう言ってやると、レナは尻尾を揺らして声なく笑った。
その拍子に、ふとあることに気づく。
「あれ……あんた、尻尾増えたの?」
「ええ、昨夜増えちゃいました♪夫の愛の証です♪」
ご満悦の表情で尾を撫でるレナ。
ミリアがここにいたら、苦笑でも浮かべているところだろう。
「あんた達は幸せそうね」
「ええ。こうして子供以外で夫の愛の証が目に見えるのは、妖狐と稲荷の特権ですから」
「九尾になったら打ち止めでしょ」
意地悪なことを言ってやると、五尾になったばかりのレナは頬を膨らませてむくれた。
「うう、ルカさん意地悪ですよ」
そう言って恨みがましい目を向けてくるレナだったが、すっと表情が真面目なものに変わった。
「今日もミリアさんのところですか?」
不意をつかれた気分だった。
レナが気づいているとは思っておらず、つい目を見開いてレナの顔をまじまじと見つめた。
「……あんた、わかってたの?」
「なんとなくですけどね。最初はルカさんに恋人ができたのかと思いましたけど、料理を取りにくる時のルカさんはいつも真剣な顔してましたから。ああ、これは違うなって。そうなると、考えられるのって限られてくるじゃないですか。ルカさんはミリアさんと一緒の来店がほとんどでしたから、そのミリアさんと一緒に来ないのは、そこに理由があるからなんじゃないかって」
ほとんど間違っていない推論に、ちょっと感心してしまう。
「……気にならないの?」
アタシにしては考えが足らない発言に、レナは苦笑した。
「それはもちろん気になりますよ。ルカさんだけが店に来て、ミリアさんの分の料理を持ってくって、あまりいい想像ができませんし。でも、私まで心配してミリアさんに会いに行っても、あの人に余計に気を遣わせるだけしょう?」
あま
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