リリムと終わらない物語 〜夢の終わり〜

少し不満そうな顔だった。
それが不思議で尋ねたことがある。
なぜ、そんな顔をしているのかと。
「誰も私を見てくれないからよ」
姉はそう言って苦笑していた。
しかし、私には理解できなかった。
リリムの特性を考えれば、見てくれないという事態などあり得ないから。
そう思っていることが顔に出ていたのか、姉は苦笑いのまま私の頬を撫でた。
「あなたもいつかわかるわ。だから、きちんと『あなた』を見てくれる人を見つけなさい―」


意識が覚醒し、同時に目が見開かられる。
少し辺りが暗い。
体内時計もまだ早い時間であることを主張していることから、いつもの起床時間より早くに目が覚めたらしい。
毛布を押しのけて静かに体を起こすと、途端に寒さが体を襲う。
このまま毛布に潜り直して二度寝したいという欲求に駆られるが、一度起きたら二度寝ができない体質なのでそうするだけ時間の無駄だ。
毛布の中の温もりは名残惜しいがすっぱりと諦めてベッドを下りると、素早く寝巻から着替える。
支度を終えると部屋を出る前にベッドに歩み寄って、同じベッドの共有者を見つめた。
彼はまだ夢の世界にいるらしく、眺めていても起きる気配はない。
普段は大人びていて落ち着いた表情しか見せないグレンだが、寝顔だけは無防備だ。
それを見るのが好きで、朝起きた時は必ず見てしまう。
見ていて飽きないから、ほとんど癖になりつつあるのだ。
別に悪いことでもないので満足するまで眺めているのだが、今朝は早めに目が覚めたのだから、この時間は有効に利用しないと勿体ない。
せっかくだし、少し手の込んだ朝食を用意することにしよう。
「さて、なにを作ろうかしら……」
台所に移動して材料と相談すると、果物の数が多い。
苺、パイナップル、バナナ、桃、メロン、ブルーベリーと種類豊富に揃っている。
そういえば、先日の買い出しで安く売られていたからという理由で、どう調理するか特に考えもせずに買ってきたのだった。
どれも腐らないように魔法をかけてあるが、これだけあるとさすがに場所を取る。
邪魔になるほどではないが、いつまで置いておくのもどうかと思うし、今回は果物を使う料理にしよう。
「さて、まずは生地から用意ね……」
ボウルと取り出し、そこに卵と小麦粉を入れる。
そして丁寧にかき混ぜ始めた―。


「なにかあったのか……?」
朝起きてきた彼の第一声はそれだった。
まあ、彼がそう言ってしまうのも無理はない。
台所のテーブルの上にはそれくらい皿が置かれている。
そこにあるのはホットケーキとフルーツサラダ、そしてフルーツパイである。
そのうちのパイがかなりの量になっている。
ちょっとした計算違いで、最初に作った生地だけでは用意した果物を消費しきれなかったのだ。
「ちょっと張りきりすぎちゃったのよ」
席に着くグレンの前に紅茶を用意すると、彼はそれだけで小さく笑った。
「そうか。では、俺も食べる方を張りきるとしよう……」
「無理に全部食べなくていいわ。見ての通りけっこうな量だから、残ったらお昼のデザートにしましょ」
そして始まる朝食の時間。
彼がこの家に来て早くも七日が経った。
グレンがどうなのかはわからないが、私にはこうして二人で食事をすることがすっかり定着しつつある。
今まで一人で食べる食事をつまらないと思ったことはないが、こうして誰かと一緒の食事には敵わない。
ルカと一緒の時とは違って特に会話もしない穏やかな食事だが、これはこれでいいものだ。
その時間を共有するグレンはさくさくする生地に載せたフルーツパイを淡々と食べている。
同じようにパイを口に運びながら、さり気なく彼が食べているところを眺める。
寝顔を見るのも好きだが、こうして食事をしているところも嫌いではない。
一緒に過ごしているうちに、彼の魅力的なところがどんどん見つかっていくのだ。
それが楽しくて、つい目をやってしまう。
おかげで、彼が来てからは毎日が楽しみで仕方ない。
今日はどんなところを見られるかと、つい期待の目を向けてしまうのだ。
そのせいか、今していることが気づかないうちに終わっているということが多くなった。
今回も例外ではなく、ハーブティーを口に運んだ時に何気なくテーブルを見やり、そこにある皿が半分以上空になっているのを見て、いつの間にか朝の分を食べ終わっていることに気づく。
私はそこまで食べた覚えもないので、グレンが頑張ってくれたのだろう。
再び視線を向ければ、いつもの落ち着いた表情で同じようにハーブティーを飲んでいるところだった。
「どうかしたか?」
私の視線に気づいたようで、彼の顔がこちらに向いた。
「どこまで頑張るのかと思ってね」
カップを持つ手を止めたのは一瞬のこと。
すぐに視線がテーブルに落ち、そして上げられた。
「すまない。今はこれ以上は無理だ。昼で
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