リリムと終わらない物語 〜穏やかな時間〜

この世は不平等だ。
神の名の下に全ての人々は平等だと教団は謳っているが、それが欺瞞であることは子供だって理解している。
生まれた時から不自由なく暮らしている者がいる裏側で貧困に喘ぐ者もいる。
俺はその後者だった。
気がつけば孤児院にいた。
両親は戦火に巻き込まれて命を落としたと聞かされた。
それが本当かはわからないが、幼かった自分はその言葉を素直に受け入れ、顔も覚えていない。
幼い頃から両親を亡くした時点で不幸だったはずだが、自分だけが不幸だと思うには、回りに同じ境遇の者が多すぎた。
性格がひねくれなかったのは、そのおかげかもしれない。
商売が繁盛するのはいいことだが、孤児院が繁盛するのだけは誰も喜ばない。
それだけ不幸を背負った子がいるということだからだ。
実際、俺がいた孤児院ではシスターが毎日のように慌ただしく足を動かしていた覚えがある。
下はろくに言葉も話せない子から、上は数年で社会に出て行く歳になる者と、実に様々な子がいた。
歳を重ねるごとに手間がかからなくなり、やがて仕事を得て出て行く者がいる一方で新しく入ってくる幼い子がいる。
いつまでもその繰り返しだった。
国が運営する孤児院だったため、資金繰りで困るということはなかったはずだが、それでも俺は仕送りとして稼いだ金のいくらかを毎月送っていた。
長い間世話になった場所だから、少しでも恩返しがしたかったのだ。
そんな俺が手にした職は国に仕える騎士だ。
商売の才能があるとは思えなかったし、職人を目指すほど興味を持てることもなかった。
幸か不幸か、俺のいた国は他国との争いが絶えなかったから、常に兵を欲しがっていたということもあって、あっさり騎士になると決めた覚えがある。
自分のような子を増やさないためにとの青臭い考えを抱いてだ。
そして、現実は優しくないということを思い知らされた。
騎士になって数年後、国はいよいよ国交問題が深刻となり、ついに他国と戦争を開始し、やがて敗北。歴史からその名を消すことになった。
俺がいた孤児院は国というパトロンを失ったことですぐに経営難となり、程なくして国と同じ道を辿ったと聞いている。
そこにいた子供達がどうなったかはわからない。
恐らくは他の孤児院に流れたのだろう。
孤児院への恩返しとして騎士になった。
しかし、守りたいものはあっと言う間に俺の手から零れ落ちていった。
騎士になって得られたのは、そこで出会った親友くらいなものだ。
その友と、国は守れなくても自分の大切なものだけは守ろうと誓い、そして―。


ふと目が覚めた。
夢による懐かしい記憶巡りが唐突に終わり、目を瞬かせる。
自分の顔をそっと撫で、その感覚が夢ではないことを確認すると口から小さなため息がもれた。
あの後のことが、全て夢であったならよかったのに、と。
馬鹿馬鹿しい考えを振り払うように身体を起こすと、目だけを横に向ける。
そこに彼女の姿はない。
朝起きるのは早い方だと自覚しているが、彼女は俺より早いらしい。
魔物の性質は一応知っているつもりなので、夜に活発で朝は弱いと勝手に思っていたのだが、少し考えを改めなければいけないようだ。
そんなことを思いつつ、ベッドから下りて隣りの部屋へと移動すれば、香ばしい匂いが漂っていることに気づいた。
匂いは台所からのようで、なんとなく覗いてみると、エプロンを着けたミリアがフライパンの上でなにかを焼いていた。
誰がどう見たって普通に料理をしているだけなのだが、なぜか視線が釘付けになてしまう。
声をかけるでもなくただ見つめていると、彼女はやがて俺の視線に気づいたようだ。
顔がこちらに向き、清々しい笑顔を向けてきた。
「起きたのね。おはよう、グレン。今、朝食を作っているところだから、もう少し待ってね」
「ああ……」
そんな彼女に対して、自分が返すのはたったそれだけの言葉。
好きで返したわけではない。
ミリアに見つめられると、なぜか言葉が詰まったのだ。
それを言い訳にする気はないが、おはようの一言さえ言えない自分がろくでもない人間に思えてくる。
いや、俺は実際にろくでもない人間だったな……。
自分自身の認識にため息がもれる。
いつから自分はまともな人間になったというのだろう。
まったく馬鹿な話だ。
自分に呆れると、ミリアの邪魔にならないようにと席に着く。
俺が座っている席は調理台と向かい合っているので、必然的にミリアの背中が視界に入る。
どういう仕組みなのかさっぱりわからないが、昨日見た黒翼は消えていて、代わりに腰の辺りにまで垂らされた絹のような美しい銀色の髪に目がいく。
「……」
しばらく無言で眺め、そして不意に意識が現実に戻るとすぐに視線を逸らした。
あまりじろじろと眺めていいものではない。
しかし、頭ではそう思っているはずなのに、逸らした視線は吸
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