リリムと多忙な余暇(前編)

暇だった。
朝食をすませ、ソファに座っているとあくびが出てきた。
睡眠は十分にとったはずなのに、暇を持て余した途端にこれだ。
最近ルカとばかり行動していたせいか、他の友達から最近遊びに来てくれなくて寂しいなんて内容の手紙を何通ももらい、昨日まであちこちに顔見せという変に忙しい過ごし方をしていた。
そんな日程も昨日でようやく終わり、今日は完全に暇。
こんな時に気軽に遊びに行ける先がルカの家だが、ルカもルカで仕事があるらしく、今日は予定があるとのことだった。
「暇ね……」
こういう時に夫婦なら色々と楽しく過ごせるのだろうが、私にその相手はいない。
それなのに、そこまで欲しいと思わないから不思議だ。
とはいえ、このまま家にいてもだらだらするだけなのは目に見えているし、散歩ついでに夫探しでもすればいいかもしれない。
そうと決まればさっそく実行とばかりに世界地図を取り出し、行き先をどこにするか眺めてみる。
反魔物領に出向いて、魔物につんつんな男を弄るのもおもしろそうだが、今回は気楽な親魔物領にしよう。
「親魔物領はと……」
地図を指でなぞり、適当に止めた場所に決定。
なげやりな決め方だが、私は気にすることなくそこへ向かうことにしたのだった。


「あら、意外といい感じね」
気ままに赴いた街は人や魔物が盛んに動いているにもかかわらず、雑多な感じは一切なく、どこかのんびりとした雰囲気が漂っていた。
だからか、ところどころに並んだ露店も熱心に呼び込みをかけてはおらず、どの店も淡々と営業しているようだ。
それらを横目で眺めているとつい本来の目的を忘れそうになり、小さく笑って視線を街行く人々に向ける。
その中の男は四割といったところだろうか。
比率としてみればまあまあな気もするが、残念なことに私の目には景色にしか映らない。
まあ、まだ入り口だし、歩いているうちに男と認識できる人が見つかるかもしれない。
そう思いつつも、大して期待はせずに街を歩きだす。
そして十分後、ものの見事に街にばかり気を取られていた。
その間にも男は視界に映るのだが、やはり景色でしかなく、あっさり流れていく。
「まあ、そう簡単に夫候補が見つかれば苦労はしないわね……」
こうなったら、姉みたいに向こうから来てくれるのを待とうか?
しかし、そうなると今度はローブを脱がなければならない。
そうすると人目を惹いてあれこれ面倒になるわけで。
昨日まで多忙な日々を過ごしてきたせいか、そこまでする気力は私にはなく、呆れるようにため息がもれた。
そもそも、渇望するほど欲しているわけでもないし、結果は芳しくないのだから今回は潮時かもしれない。
そんなことを考えながらふと視線を別方向へと向けた瞬間だった。
私は足を止め、それに見入っていた。
男にではない。
私が目を止めたのは、街のところどころに設置された掲示板だ。
それだけなら、ちらりと見るだけだったかもしれない。
そこに掲示された一枚の張り紙。
失せ物探しと大きく書かれたそれには、見覚えのある本の絵が描かれていた。
「これは……」
ルカはこの世に存在するべきではないと言った。
掲示板に書かれた本は旧き時代の残滓とも言えるもの。
それを探している者がいる。
面倒な事態になりつつある現実にため息をつくと、私はそっとその場を後にしたのだった。


「それ、本当なの?」
「私の見間違いでなければね」
翌日、昨日私が見た張り紙について伝えると、眠そうだったルカは瞬時に目が覚めたようだ。
「調べる価値はあり、か」
すっくと立ち上がり、ルカは出かける支度を始めた。
「仕事はいいの?」
「納付期日は当分先だから、問題ないわ。仮に期日が迫っていても、禁書より優先することなんてない」
きっぱりと言い放つ様子に迷いは一切ない。
それは見ていて気持ちがいい。
「なら行きましょ。最後の一冊の手がかりだしね」
残り一冊だからそう簡単に見つからないと思っていたが、こういう形でその痕跡を見つけることになるのだから、世の中わけがわからない。
そんなことを思いながら、ルカを連れて昨日訪れた街へと転移魔法を使う。
「この街?」
「ええ」
昨日と変わらない様子の街並みを眺めつつうなずいてみせると、そのまま掲示板へと案内する。
張り紙は変わらず貼ってあり、それを見たルカの表情が曇った。
「間違いないわね。連絡はカロンまで、か」
禁書を探しているのはカロンという人物らしく、張り紙には連絡先も書かれている。
それを眺めていたルカの目が不意に私へと向いた。
「これもあんたの知り合いだったりする?」
「もし知り合いなら、直接本人の前に連れて行ってるわ」
前回は私の知り合いが禁書の所持者だった。
しかし、今回は違う。
「となると、直接会って話を聞いてみるしかないか」
「まあ、それしかないわね。
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