その日、ルカは特にすることもなくぼんやりとしていた。
時刻は間もなく昼になるが、依頼された薬は完成させてあるし、他にすることもない。
だから、新しい薬でも作ろうかと材料が保管してある箱を開け、どれを使おうか物色する。
その時、家の扉がノックされた。
それが聞こえ、ルカはぴくりと動きを止める。
ルカの家を訪問する人物は限られている。
その中で、頻繁に家を尋ねてくる人物といえば一人しかいない。
「ルカ、いる?」
予想通りの人物の声がして、ルカはすぐに玄関に向かい、扉を開けた。
「どうしたのよミリア。なんか用?」
扉の先には気まぐれリリムがいた。
それはまあいい。
ミリアは唐突に人の家にやってくるので、ルカもそれにはすっかり慣れている。
ただ、今日はいつもの魔力で作った黒衣ではなく白いドレスを着ていた。
これは明らかによろしくない。
ミリアがおめかしして来たということは、そうするに相応しい場所に行くということだから。
王女だからそういう場所に行くことは珍しいことでもないだろう。
問題は。
「ねえ、ルカ。今日、時間はあるかしら?」
笑顔で尋ねてくるミリアの目が、一緒に行こうと言っていた。
「変なことに付き合う時間はないと言っておくわ」
「なら問題ないわね。ちょっと豪華な料理を食べにいくだけだから」
さも当然のように言うが、ルカから見れば問題はありまくりである。
ミリアの言うちょっと豪華な料理がちょっとですむはずがないし、料理を食べにいくだけでドレス姿なのも不自然だ。
面倒事の匂いを敏感に感じ取り、ルカは断ろうとする。
だが、それより先にミリアの手がルカの腕をしっかりと掴んでいた。
「ちょっと!アタシは行くなんて言ってないわよ!」
「変じゃないことになら付き合う時間はあるんでしょ?ほら、行きましょ」
ミリアの細い腕に力が加えられ、ルカは家から引っ張り出された。
「だから、行くとは言ってな―」
言いかけた言葉は、無理矢理転移魔法に巻き込まれたことで遮られた。
立派な城だった。
そんな城の重厚な扉の前に連れてこられた。
「……」
とりあえず、なにから言うべきか悩んだルカは無言でミリアを睨む。
しかしミリアは気にせずに城の扉を開け放つ。
その先ではメイド服のサキュバスが待機しており、ミリアの姿を確認すると恭しく頭を下げた。
「これはミリア様。ようこそおいで下さいました。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「姉さんに会いに来たのだけど、いるかしら?」
「はい。セラ様でしたら、三階の居間にいらっしゃるかと。ご案内致します」
そんなやり取りを交わし、歩き出すサキュバスとミリア。
自分の目の前でわけのわからない話がとんとん拍子に進んでいき、たまらずルカはミリアのドレスを引っ張った。
「ちょっとミリア!これはどういうことよ!?」
「以前、姉さんにあなたのことを話したら、一度会ってみたいって言ってたから、こうして連れてきたの。そう心配しなくても大丈夫よ。ちゃんと料理は出してくれるから」
「料理の心配なんてしてないわよ!話が急すぎるって言ってんの!こういうことは、前もって話をしときなさいよ!」
ミリア一人でさえルカの手には余るというのに、更にその姉まで同じ場にいたら、ルカには完全にお手上げである。
「前もって話をしたら、あなたは絶対に会わないって言うでしょ?」
「ぐっ……それは……」
確かにその通りなのだが、無理矢理連れて来られた挙句、どんな顔をして会えというのだろう。
反論を封じ込めると、ミリアは逆にルカの手を引いて、サキュバスの後に続く。
豪華な絨毯が敷かれた廊下は綺麗なもので、壁にかけられた絵画や調度品も一目で立派だとわかるものばかり。
そんな廊下を行くメイドのサキュバスとミリアも、この場に相応しい身なりをしている。
それを見ると、ルカは自分がとんでもなく場違いな場所にいる気がしてきた。
「ちょ、ちょっとミリア。アタシ、普段着だけど、これで大丈夫なの……?」
ミリアの手を引っ張り、小声でそう囁く。
「姉さんは服装に拘るような人じゃないから、問題ないわ」
ドレス姿のミリアがそう言っても、説得力の欠片もない。
とはいえ、今更ドレスを着に戻るなんてこともできるはずがなく、ルカの表情はどんどん固くなる。
そしてついに、ミリアの姉であるセラがいるという居間に到着してしまった。
「失礼します、セラ様。お客様をお連れしました」
サキュバスが白い扉をノックすると、中から「どうぞ」という声が聞こえ、静かに扉が開かれた。
否応なしにルカの緊張が高まるなか、扉の先で黒いドレスに身を包んだ一人のリリムがいた。
ミリアにはない黒光りする角と白い翼。
白銀の長い髪と魔力の宿った紅い瞳。
全てが正しいリリムの姿だ。
「あら、これは嬉しいお客様ね」
こちらを見て、楽しそうにセ
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