リリムと白い孤島 〜優しく閉幕を〜

まるで真珠色の巨大な宝石のようだった。
イースにしっかりと抱かれているそれは、触れると艶やかで温かい。
あの後すぐに戻ったのだが、町の人々が一目見ようとイース夫妻がいる病院へと押しかけ、とても二人に会えるどころではなかった。
そのせいで、夜も遅い時間にようやく対面となった。
「ふふっ、鼓動を感じるわね」
卵の表面へ触れると、とくんとくんと脈打っているのがわかる。
この中で眠る子がやがて殻を突き破ってくるのだと思うと、つい微笑んでしまう。
「本当にありがとうございます。無事にこの子を産めたのも、あなた方のおかげです」
「私からもお礼を言わせていただきます。おかげで助かりました」
何度目かわからないくらい、イースとウォルターが揃って頭を下げる。
「お礼ならルカに言ってね。もっとも、本人は辟易してるだろうけど」
視線をルカへと向けると、彼女はどんよりとした顔でぐったりとソファにもたれていた。
「そういうこと……。うー、食べすぎた……」
苦しそうに呻いている理由は、イースの子が誕生した記念ということで、即席で開催されたお祭りにある。
それは同じ島に教団がいるのにも関わらず盛り上がり、飲めや歌やの大騒ぎ。
挙句の果てには、イースを見習って子を作れとあちこちで腰を振り始める夫婦や恋人が続出したくらいだ。
イースを病院へとつれてきたということで、ルカはそんなお祭り騒ぎに駆り出され、日が暮れるまで飲み食いに付き合わされていた。
私が戻った時には既にお祭りが始まっており、私も翼を消してのローブ姿で途中参加。
ルカと合流しようかとも思ったが、一緒にいると色々と大変そうだったので、少し離れた位置からその様子を見て楽しむことにした。
そして今に至るというわけだ。
「でも、楽しかったでしょ?まんざらでもなさそうだったみたいだし」
「あんた、祭りの時どこにいたのよ?アタシがどれだけ大変だったと思ってるわけ?」
「瞬時に人気者でしたよね、ルカ様。あんな娘を作るぞと励んでおられた方もいたくらいですし」
くすくすと笑って告げたイースの言葉に、ルカはなんとも言えない表情になる。
「あ、あれは酔った勢いでふざけて言ってただけよ!絶対そう!」
認めないとばかりにルカはそう主張するが、絶対に違うと思う。
顔を赤くしてあたふたしてる今のルカの様子を見れば、誰もがそう思うはずだ。
「まあ、ことの真意は置いておくとして、私達はそろそろ戻るわ。こんな時間に居座っても悪いし」
そんなわけで、部屋の出口へと向かう。
「ミリア様。私も無事にこの子を産めたことですし、明日からは私も本格的に協力致します」
「いいえ、その必要はないわ。あなたは明日から子育てに専念するべきね。もしくは」
顔をウォルターへと向ける。
そこで、意地悪な笑みを浮かべ、言ってあげた。
「二人目でも作ってて。ルカもいるし、そう時間はかからずに終わると思うから」
そう言った瞬間、イース夫妻は揃って頬を赤らめ、互いにそっぽを向く。
似た者夫婦の典型的な例だ。
それは見ていて微笑ましい。
ルカが結婚した場合もこんな感じになりそうだ。
それを想像しつつ本人を見ると、ルカは「?」と小首をかしげた。
「さてと。夜も遅いし、私達はそろそろ帰るとするわ。ルカ、行きましょう」
扉へと手をかけた時だ。
そっと静かな声で呼び止められた。
振り向けば、穏やかな顔のイース。
子を産んで母親になったからか、その表情には以前よりも慈愛の色がいっそう色濃くなった気がする。
「よい夢を」
祈りにも似たその言葉に小さく手を振って返事をし、彼女達の家を後にする。
そのまま宿に戻り、後は寝るだけだった時だ。
「ミリア、これ」
テーブルの向かいに座ったルカがそっと一枚の紙を差し出してきた。
「これは?」
「あのバカが頼んでもいないのに調べた情報よ。イースには見せる必要性がなかったけど、あんたは見たほうがいいわ」
素直にそれを受け取り、綴られた文章に目を通す。
そこに書かれていたのは、エアリスに関する情報だった。
情報屋の彼が気を利かせてくれたらしい。
教団が綴ったエアリスに関する情報だが、不可解なことに要注意人物とされていた。
勇者なのに、なぜ要注意人物なのだろう。
そんな疑問が浮かぶが、その答えは書面に書いてあった。
姉の元へ寝返る可能性有り。要警戒。詳細は備考にて。
今度は別の疑問が出てきた。
寝返る?
怪訝に思い、備考欄のメモを見て納得した。
姉、エレナはレスカティエにて行方不明。恐らく魔物になったものと思われる。同時に、教団内における彼女の情報は抹消済み。
エアリスの勇者としての行動に不審な点があった場合、速やかに拘束すること。教団を裏切る可能性有り。
そんな一文を読み終わり、思わず頷いていた。
「だからあなたは憎悪の目で私を見ていたのね……」

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