「おはよう」
ルカとともにイースの住処を訪れると、二人はちょうど朝食を終えたようで、ウォルターが片付けをしているところだった。
「おはようございます、ミリア様にルカ様。見ての通り私達は朝食を終えたところですが、お二人は?まだでしたらすぐにご用意できますが」
「せっかくだけど、アタシ達も食べてきたわ。それこそ食べきれないくらいにね」
ルカが若干呆れるような口調なのは、イースが事情を説明して手配してくれた宿が朝食にあふれんばかりのご馳走を出してきたからだ。
その宿もやはり姉に恩があるとかで好待遇だった上に、私達がやろうとしていることを知らされているからか、是非一人男をと経営者の妖狐に熱心にお願いされたくらい。
どうやら思っている以上に男が不足しているらしい。
「それで、各町への連絡はしてもらえたかしら?」
「ええ、全ての町に滞りなく。どの町でも警備隊志願者が殺到して、ちょっとしたお祭り騒ぎだったそうです」
その様子が想像できたのか、イースは困ったように笑う。
志願者が殺到したというのは、もし男を捕まえればそのまま夫にできるからだろう。
二つの意味でヤる気満々というわけだ。
「それは……ちょっと予想外だけど、不安を煽るような結果にならなくてよかったわ」
これで各町への配慮は大丈夫と言っていいだろう。
「ええ。私から報告できるのは以上ですね。お二方は?」
ルカの目が私に向けられる。
「あなたの指示通り、薬は勇者の剣にかけてきたわ」
「そう。じゃあ、説明するわ」
借りた地図をテーブルに広げると、ルカは昨日出したコインを置く。
そして地図に魔力を込め始めた。
すると、コインが勝手に動き出したではないか。
それはするすると地図の南側へと動いていき、ある地点でぴたりと止まった。
「これで同期完了っと」
「あの、これは?」
地図からイースが興味深そうな目を上げる。
「まあ、簡単な追跡システムってところかしら。磁石みたいなもので、昨日この子に渡した薬がかけられた物が移動すると、こうして地図で確認できるってわけ。これで勇者がどこに向かうかは把握できるわ」
「随分とすごいことをやってのけるわね。個人的には、一体どんな目的でこの薬を作ったのか気になるけど」
「……師匠、知らない町に行くと決まって迷子になるのよ。だから、当初の目的としては師匠発見のため。それ以外では、夫持ちのラミアなんかがよく注文してくるわね」
効果だけを考えれば、確かに嫉妬深いラミア達が欲しがりそうな薬だ。
だが、実際は複雑な事情の下に作られたものらしい。
そう語ったルカはものすごく微妙そうな顔だった。
「しかし、とても便利な薬ですね。これがあれば、勇者の行動は筒抜けというわけですか」
「そういうこと。薬である以上、効果時間はあるけど、一週間は持続するわ。その間に片付ければ問題なしよ。それに、向こうはそんなに時間はかけられないだろうしね」
「それは、どういう意味ですか?」
疑問の声がイースから上がるが、ルカは視線を私に向ける。
今度はあんたが話しなさいとでも言いたいのだろう。
ルカには昨夜薬をかけに行った時に私が見聞きしたことを説明してある。
それらの情報から考えられることを今朝の朝食の時に話し合っていたのだ。
「昨夜、ルカに言われた通りに薬をかけに、彼らの船に乗り込んだわ。その時、何人かを魅了して目的を聞いてみたの」
二人の耳目が集まるなか、私はそのまま説明を続けた。
「彼らの目的はイース、あなたよ。目的がドラゴンの討伐だからか、この島に来ている人員は五十以上。立派な大隊ね。そんな彼らが乗るのは大型船よ。ここまでの情報から、私とルカはこう考えたの。人数が多い以上、そう長くは戦い続けることができないと」
「食糧の問題、ですね」
イースの頭も飾りではない。
すぐにその答えに辿り着いたようだ。
「ええ。人数が多いということは、それだけ食糧が必要になる。当然、向こうもある程度は用意してきているはずだけど、それでも人の数を考えると備蓄は近いうちに底をつくでしょうね。倹約して長期戦の構えをとる可能性もあるけど、そうなると士気の低下は避けられない」
「一応確認するけど、あの辺りに野生の動物や魚はいる?」
ルカが問いかけ、イースはすぐに答える。
「はい。自然が多く残る島ですから、多少は。しかし、五十人以上の空腹を満たす量となると……」
いないわけではない。
だが、現実的には厳しいだろう。
「じゃ、やっぱり短期決戦でしょうね。近いうちに玉砕覚悟の強行軍でくるか、もしくは尻尾巻いて逃げだすかね。あんたの考えはどっちよ?」
振り向いたルカに、私は笑って答えた。
「前者。勇者の子を見るに、退くという感じじゃないわ。あれは意地でもやり遂げるタイプね」
凛として、強い意志を持った勇者。
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