リリムと白い孤島 〜来訪者〜

「招かれざる客って、まさか教団……?」
誰にともなくウォルターが呟き、イースは静かに頷いた。
「そうとしか思えません。まさか、こんな辺鄙な島に来るとは思いませんでしたが」
「あれは教団だったんですか!?ど、どうするんですかイース様!?」
教団と聞いてセリーヌが騒ぎ出す。
「どうするもなにも、お帰り願うだけです。……少々、乱暴になるかもしれませんが」
どうやら、教団を追い払いに行くつもりらしい。
島の統治者としての務めを果たそうとするのは立派だが、回りがそうさせなかった。
「だ、だめですよ!お腹の子になにかあったらどうるんですか!?」
「セリーヌの言う通りだ。ここは警備隊に連絡して、各町の警戒態勢を強化してもらったほうがいい」
「島の代表ともあろう者が、島の危機に動かず、他の島民に任せろと?それはできませんよ」
二人の静止を振り切って立ち上がるイース。
それを見計らって、私は口火を切った。
「なら、島の人でなければいいわけね?」
「え?」
驚いたように、三人の視線が私に集まった。
驚いていないのはルカだけだ。
「ここに、島の者ではないリリムとサキュバスがいるじゃない。ねえ、ルカ」
「はぁ。ま、この状況でアタシ達だけなにもしないってのは、さすがにないわ」
私達の言いたいことはすぐに分かったのだろう。
イースは力強く首を振る。
「それこそあり得ません。客人であるお二人にこのようなことを押しつけるわけには」
「あら、それを言ったら、妊娠中のあなた一人に押しつける方がよほどあり得ない選択ね」
「しかし!」
なおも食い下がるイースだったが、その両腕をウォルターとセリーヌがしっかりと掴む。
「すいませんミリア様、今回は力をお貸し下さい!」
「私からもお願いします!島の人は皆イース様の子が生まれるのを楽しみにしているんです!これでイース様になにかあったら…」
誰かのために必死になれるのは、素敵なことだと思う。
だから、微笑んでおいた。
「頼まれずとも力は貸すわ。島民ではなくとも、この事態を見逃すわけにはいかないもの。それに、この島はセラ姉さんのお気に入りでもあるみたいだしね」
これで島を制圧でもされたら、あの姉になにを言われるかわからない。
そういった意味でも、私が手を貸さない理由はない。
「話はまとまった?じゃ、行きましょ」
すっかり準備を整えたのか、ルカは立ち上がって伸びを一つ。
なんだかんだでやる気らしい。
「ああ、そうそうルカ。あなたはここで待機してて。今回は私一人で行くわ」
「なによ、人のこと巻き込んでおいて一人で行くつもり?まあ、あんたなら問題ないだろうけど。ん?今回は?」
「そう、今回は」
含みを持たせた笑みを向けると、説明することなく私は水晶洞窟を出て行く。
どういう仕組みなのか、イースの住処では寒さを感じなかったが、外に出るとやはり雪景色に相応しい気温だ。
「さてと、たまにはリリムとしての仕事もしないとね」
相手が誰であろうと、魅了して島の人達に引き渡してしまえばそれで終わり。
だが、それではあまりにもつまらなすぎる。
かといって、被害が出ることは避けなければならない。
最悪の事態を避けつつ、こちらの望む方向へと運ぶにはやはり情報が必要だ。
そういった意味でも、まずは顔合わせといこう。
思考をまとめて軽く笑うと、島の南側へと転移したのだった。



「今のところは順調ですか?」
室内に女性の声が響いた。
実際には響くほど大きな声ではなかったが、室内が静かだったこともあり、その声はよく聞こえた。
「ええ。ただ、島の規模とこちらの人員を考えると、どうしても時間はかかりそうです」
書き物をしていたウィルは顔を上げて苦笑しつつ、言葉を続けた。
「だからこそ、今回の仕事は納得がいきません。相手がドラゴンだと分かっていながら、こちらは大隊一つに勇者が一人。相手が相手なだけに、いささか心許ない。上層部は一体なにを考えているのやら」
「勇者が私一人では頼りないですか?」
エアリスが少し楽しそうに言うので、ウィルもまた満面の笑みで返事を返した。
「まさか。私が言いたいのは、ドラゴンを倒したいのならもっと勇者を送るべきだということです。いくら大隊といっても、ドラゴン相手はさすがに厳しい。結局のところ、最後はエアリス様に頼らざるを得ないわけです。言い換えれば、ドラゴンを倒す負担は全てあなた一人に押しつけることになる」
語り終える頃には、ウィルの顔はすっかり真剣なものになっていた。
だからこそ、エアリスもまた笑みを消して真面目に言葉を返す。
「それが私の、いえ、勇者の務めですから」
さも当たり前のように言うエアリスに、ウィルは鋭い視線を向けて口を開こうとする。
だが、それは扉をノックする音に遮られた。
「入れ」
言葉と同時に扉が開き、入ってきたのは
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