リリムとありし日々(番外編)

森に囲まれた城は今日も静かに存在していた。
そんな城の一室、かなりの広さを誇るその部屋に天蓋付きの豪華なベッドが一つ。
そこに、一人のリリムが美しい寝顔を晒しながら横たわっていた。
その様子はキスで自分を起こしてくれる王子様を待つ眠り姫のようだが、残念なことに彼女を起こしたのは無粋な扉のノック音だった。
「入っていいわ」
声が届いたらしく、扉を開けて一人の青年が部屋へ入ってきた。
後ろ手で扉を閉めると、青年はそっとベッドへ近づき、彼女の顔を見つめる。
「起きているみたいだね。大怪我をしたと聞いたけど、具合はどうだい?セラ」
「できれば、あなたのキスで目覚めさせてほしかったところね。具合は見ての通りよ」
そう言ってセラは苦笑する。
「やれやれ。旅行から帰ってきたと思ったら、君が大怪我を負って寝ていると聞いて急いで来たんだが、思ったより元気そうで安心したよ」
「ふふ。じゃあ、安心したところで」
「うおっ!?」
セラにかけられていたシーツがふわりと浮かび、セラは青年をベッドへと引き倒した。
遅れてシーツが落ち、まるで最初からそうしていたかのように青年はセラの隣りに寝かされる羽目になる。
「夫婦の語らいといきましょうか」
「……セラ、君、実はもう全快しているんじゃないか?」
「いいえ、全く。実は動くのもかなり辛いのよ。今の私は…そうね、人の小娘と同じくらいかしら」
「そうか……」
どこか残念そうにため息をつく青年。
「その様子だと、旅行は有意義だったかしら?」
対するセラはくすくすと笑いながら、彼の鼻に人差し指を当てる。
「はあ、君は意地悪だ。なにせ、「妹と水入らずで話したいから、しばらく旅行に行ってきて」なんだから。しかも、その旅行先が性欲を高めるような場所ばかりだし。おかげで、大分溜まってるよ」
「そうなの?どれどれ」
彼の鼻へ当てられていた手がシーツの下に潜り、青年の股へ向かう。
そしてすぐにお目当てのモノに行きついた。
「あら、なにもしてないのにこんなにしちゃって。効果は抜群ね。他の皆はどうだった?」
「同じだよ。今頃、奥さんとしっぽりヤってるんじゃないかな。これなら、絶対に孕ませられるって喜んでたくらいだし。僕も早くセラに搾ってもらいたいと思ったのに、君がそんな状態なんだもの」
「ふふっ、まあこれは私も想定外だったから。本来の予定では、妹に僅差で負けて、性欲を昂らせて帰ってきたあなたに慰めてもらう計画だったんだけどね」
どこまで本当かわからない計画を暴露するセラに、青年は苦笑する。
「ねえ、セラ。今回のこと、一体どこまでが君の思い描いた絵図だったんだい?」
「全部よ」
あっさりとセラはそう告げた。
「全部?」
「ええ。舞台はあの子が活躍して終わる。そういう物語にしたから。あの子に負けることはわかっていたから、それも含めて今回の物語を作ったわ。そして、妹に負けた私は愛しい夫に慰めてもらう。言ってしまえば、今こうしてあなたといちゃいちゃするのが、今回の計画の終着点よ。まあ、最後の最後で予定が狂ったけどね」
そう言うセラは清々しささえ感じられるような笑顔だ。
「思い通りに事が運ばなかった割に、楽しそうだね。お気に入りの街を気まぐれに巻き込んだ甲斐はあったということかな」
少し棘のある言葉に、今度はセラが苦笑する。
「気まぐれ……そうね、確かに気まぐれだわ。あの土地で権力を持つ人達はね。でも、あそこに住む人達以外はそれがわからない」
「セラ?」
苦笑が嘲笑へと代わっていた。
「ここからは、あの子には言わなかった話。あそこの街並みは美しい。でも、その水面下では、権力者同士のつまらない争いが絶えずあるのよ。今までは、それがぎりぎり表に出てこなかっただけ。知らないだけで、その板挟みになって苦しむ人は大勢いた」
「じゃあ、君の本当の目的は……」
全てを察したらしい青年が口を挟むと、セラは呆れたように笑った。
「自分達の気まぐれな発言で振り回される人がいるのに、そんなことは全く気にしていない。あの土地で権力を持つ人は皆そうなの。だから、同じ気まぐれでお灸を据えてあげようと思ってね。下の人達は上の命令だったからという言い訳ができるけど、指示を出した権力者達はそうはいかない。噂に踊らされた道化として笑われるわけね」
一部の者に普段の横暴のツケを払わせる。
それが、セラの隠された目的だったわけだ。
「そういうことか」
「まあ、それはおまけの同時処理みたいなものね。一番の目的はミリアよ。そっちに関しては嬉しい誤算だったけどね」
真面目に語っていた雰囲気がころっと変わった。
「嬉しい誤算か。それくらい、妹の力が強大になっていたと?」
「ええ。だから、今回の結果は満足よ」
セラが本当に満足そうだからか、青年も表情を緩め、苦笑する。
「わからないな。君のこ
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