空は雲一つない快晴だった。
開け放たれた窓から差し込む陽光は温かく、時折吹く優しい風が窓際のカーテンを揺らす。
時刻は朝が過ぎ、人が活発に動き回る頃。
とある街の家、その一室では時が止まったかのような雰囲気だった。
ベッドに横たわって眠る若い娘と、その傍に立ち、険しい顔で診断書に文字を書き連ねる白衣の中年男性。
更にその背後では、青年と中年の女性が医者の診断が終わるのを神妙な顔で見守っていた。
やがて診断書を書き終わったのか、医者の男性は険しい顔のまま、背後の二人へと振り向いた。
「非常に申し上げにくいのですが、これ以上は手の施しようがありません。もって一月半になるかと…」
医者の言葉に、中年の女性は「ああ…」と悲愴な声を漏らす。
青年も苦虫を噛み潰したかのような表情になるが、それでも気を落ち着けて医者に礼を述べた。
「…いつもありがとうございます、先生」
形式的な礼だったが、医者も状況が状況なだけに軽く頭を下げると部屋を出て行った。
部屋の扉がぱたんと音を立てて閉まると、青年はそっとベッドに歩み寄り、娘の顔を見つめる。
娘の顔立ちは整っているほうだが、青白い肌が確実に病に蝕まれていることを示していた。
「リィナ…」
青年がそっとその頬を撫でると、彼女の目がうっすらと開く。
済んだ青の瞳は虚空をさ迷った後、青年へと向けられた。
「ロイド…ごめん、ね…」
小さな、それもかすれそうな声での囁きは、青年の顔を曇らせるのに十分だった。
「起きてたのか…。ちゃんと寝てないと駄目だろ?」
「起きてたいんだ…。一月半、なんでしょ…?私が、生きていられる時間。だったら、できる限り起きて」
続きの言葉は咳によって邪魔をされた。
「…ほら、無理するな。それに、お前はもっと生きなきゃ駄目だ」
「そう、だね、お嫁さんになるって…、約束したもんね…」
生気のない顔で弱々しく微笑む様は、目を背けたくなるくらいに痛々しい。
それでもロイドは歯を噛みしめるだけに留めた。
「…そうだ。だから、今は休んでくれ。な?」
ロイドが無理矢理笑顔を浮かべると、リィナは声なく笑って目を閉じた。
少し眠るようだ。
「おばさん、外に出よう」
涙で目元を濡らしたリィナの母、デルフィンを部屋の外に連れ出し、台所の椅子に座らせる。
「ごめんなさいね、ロイド君…。親の私がみっともないとこを見せて…」
「いいえ、あんなこと言われたら、親なら誰だって動揺しますよ。それより、俺はやっぱり行くことにします」
どこへ、と訊かずともデルフィンはそれだけで分かったらしい。
瞬時に立ち上がると、ロイドの両肩を掴んだ。
「それだけはやめて!あなたも聞いたでしょう?あの子はもう、一月半しか生きられないのよ…。だったら、傍にいてあげて」
それは親としての願いでもあるのだろう。
ロイドとしても、できることならそうしていたい。
だが、それ以上にリィナを助けたいと思う気持ちの方が強かった。
「俺は、リィナに死んでほしくない。おばさんだって同じ気持ちのはずだ。だから、リィナを助けられる可能性があるなら、俺はそれに賭けたい。このままリィナが病気で死んでいくところなんて見たくないんだ」
「でも、噂に頼るなんて…!」
そう言われるのも無理はなかった。
だが、他に当てにできるようなものもないのだ。
「必ず手に入れてくる。だから…、それまで生きているように言っておいて下さい。…出発前にまた来ます」
デルフィンの手をそっと肩から外すと、ロイドはなにかを決心したように早足で家を出て行ったのだった。
「で、今日はなにしに来たのよ?」
机に向かい合って座る少女は青リンゴをかじりつつ、そんなことを言った。
時刻は間もなく昼になるのだが、徹夜であれこれと調合をしていたルカは今更ながらに遅めの朝食をとっているらしい。
「どこかに遊びにいかないかと思ってきたのだけど…」
言葉を区切り、視線を向けると青い瞳が無防備に見つめ返してきた。
「で?」
「ルカ、それはあなたの朝食なの?」
「朝食兼昼食ね」
それがなに?とでも言いたげなルカに、私は朝からため息だ。
「あなたはもう少しちゃんとしたものを食べるべきだと思うの」
「いいじゃない。大体、料理なんて時間のムダよ。そもそもアタシ達は魔力さえあれば生きていけるんだから、食事なんて適当でいいでしょ」
「それはそうだけど、そもそもルカは料理できるの?」
何気ない一言はルカの癇に障ったらしい。
その眉根に皺が寄った。
「失礼ね、アタシだって料理くらいできるわよ!ちょっと待ってなさい!すぐに作ってくるから!」
そう言い残し、隣りの部屋へと行ってしまった。
「あれは意地かしら…?」
なにはともあれ、ルカが料理を作ってくれるというのは楽しみだ。
だが、予想に反してルカはすぐに戻って来た。
「ルカ?料理は
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