「じゃあ、行ってきますね」
「ああ。レナ、気をつけてな」
愛しい夫と短い挨拶を交わして私は家を出た。
それが、私の災難な一日の始まりでした。
「えーと、ここ、どこです?」
転移を終えた私はぽかんとしていた。
辺りは森に囲まれ、どこをどう見てもいつも買い物に来ている町ではなかったから。
ついでに言うと、私の呟きに答えてくれる人もいなかった。
空を見上げると、綺麗な青空。
魔界じゃありませんね…。
ということは、魔界ではないとこに来てしまった…?
転移魔法陣の誤作動でしょうか?
疑問に思って足元を見ると、そこに転移魔法陣は存在していなかった。
「……」
これ、かなりよろしくない状況なんじゃないでしょうか?
不安になった私はとりあえず人を探そうと判断し、歩き出そうとする。
しかし、近くの茂みから音がして踏み出そうとした足が硬直してしまう。
近づいてくる音の方角を凝視していると、そこから顔を出したのはリザードマンの方。
見慣れた存在が顔を出したことに、私はホッと一息ついた。
リザードマンの方がいるということは、ここは親魔物派の土地なのだろう。
そんな私の姿を見たリザードマンの方は笑顔を浮かべて声をかけてきてくれた。
「気配がしたから見に来てみれば妖狐か。その様子だと、聞かされてた場所と違って戸惑っていたんだろう?だが、安心してくれ。ここは間違いなく転移場所であっている。たまにこういう転送ミスがあるらしいんだ」
「え?えっと、あの、私は」
「ああ、戸惑わなくてもいい。私もお前と同じだ。名前はリザ。ほら、ついて来てくれ。みんなのところに案内しよう」
ろくに話も聞かずにリザさんは歩き始めてしまう。
でも、悪い人じゃなさそうだし、不安だったこともあってついて行ってしまった。
そしてしばらく歩くと森を抜けて開けた場所に出る。
そこにあったのは立派なお城。
「うわあ…」
感嘆の声を漏らす私に、リザさんはくつくつと笑う。
「すごいものだろう?私も初めて見た時はそうだったな。さ、こっちだ」
そんなお城に、リザさんは当然のように入っていく。
彼女の後ろについていくと、城の中は外見とは違って綺麗だった。
手入れが行き届いている、というのがしっくりくる内装の城を進んでいくと、辿り着いたのは大きな広間。
そこでリザさんは立ち止まると振り返った。
「ここで待っていてくれ。今、魔王様を呼んでくる」
「はい。…は?ちょ、ちょっと待って下さい!魔王様!?」
「そうだ。なに、緊張する必要はないさ。気さくな方だしな」
笑顔を浮かべてリザさんは行ってしまった。
けど、私にとっては予想外もいいとこである。
魔王様って、あの魔王様ですよね?
ミリアさんのお母様の。
ということは、ここは魔王城?
つまりリザさんはここに勤めている方ということで…。
「私、失礼な態度を取ってないでしょうか…?」
ろくに現状が把握できないまま、その場で待っているとリザが戻ってきた。
それに続いて、スライム、ワーウルフ、ケンタウロス、ゴブリン、ホブゴブリン、サキュバスと様々な種族の魔物までもが姿を現す。
そんな彼女達の一番最後に一人の男が歩いてくると、皆が道を開ける。
「ほら、魔王様。新しい人が待ってるよ」
「いや、彼から送るという連絡はなかったんだが…」
「しかし、現に妖狐が来ていますし」
聞こえた会話から、どうやら男の人が魔王らしい。
それに少なからず疑問を抱く私。
それでも口にせずに待ってると、魔王様と呼ばれた人が私の前まで来て軽く笑った。
「一応、初めましてでいいかな。魔王のヴェンだ」
そう言って手を差し出してくるが、私はその顔を凝視してしまう。
「あの、本当に魔王様なんですか?自称とかじゃなくて?」
そう言った途端、リザさんに怒鳴られた。
「貴様、魔王様に対して失礼だろう!」
リザさんだけでなく、他の何人かも怪訝そうな目で私を見てくる。
そんななか、ヴェンさんだけは楽しそうに笑った。
「ははは、よく言われるよ」
「魔王様!のん気に笑わないで下さい!」
ケンタウロスが叫び、他の人達もそれぞれ曖昧な笑みを浮かべる。
なんだか不思議な人ですね…。
それが、私がこの世界の魔王様への第一印象でした。
あの後、立ち話もなんだからということで食堂に移動し、今現在、私は元いた場所や魔王様のこと、ここに来た事情を話していた。
ヴェンさんはそれを興味深そうに聞いていたが、やがてその顔を険しくする。
「レナ君だったね。君の事情は分かった。で、とても言いづらいのだが、恐らくここは君のいた世界とは似て非なる世界だ」
「え…、どういう意味ですか?」
「君の話を聞く限り、魔王は女性のようだが、私はこの世界で私以外に魔王と呼ばれる存在を知らない。君のいた場所の名前もね。そして転移魔法陣の誤作動。このことから推察
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