リリムと心の傷跡

朝の空気が気持ちいい。
ほとんどの人が朝食を食べ終えて仕事へと出向く時間に、私は街を歩いていた。
向かうは知り合いが経営している店。
『狐の尻尾』と書かれた看板を掲げている店は扉に準備中となっていたが、お構いなしに店へと入ると、レナがせっせとカウンターで作業をしていた。
「あ、おはようございます、ミリアさん。朝から来るなんて珍しいですね」
「おはよう、レナ。一つお願いがあるのだけど、いいかしら?」
私の頼みは意外だったのか、レナは可愛らしく首をかしげる。
「お願いですか。なんです?」
「大したことじゃないわ。持ち帰りできる料理を二人分お願いしたいの」
「なんだ、そんなことですか。もちろんいいですよ。料理の希望はあります?」
律儀に訊いてくるが、この子の作る料理はなんだっておいしいのだから、希望なんてない。
「特にないわね。レナにお任せするわ」
「わかりました。じゃあ、さくっと作ってきますね」
身を翻し、レナは厨房へと向かう。
やはり料理が出来るのは羨ましい。
そんなことを思いながらレナを見送ると、すぐに別の考え事をする。
頭に浮かぶのは、つい最近できた新しい友達のこと。
レナに用意してもらっているのは、彼女と一緒に食べるための朝食。
別に私が作ってもいいのだが、今はまだ簡単なものしか作れないのでレナを頼ることにしたわけだ。
なにより、レナの料理ならあの子も文句は言わないと思うし。
心の中で言い訳していると、レナが戻ってきた。
「今ゆっくりと焼いてますから、少し待って下さい」
「焼き加減を傍で見ていなくていいの?」
「どれくらい待てばいい感じに焼けるかくらいは分かりますから」
「さすがね。ところでハンス君は?」
「あの人なら、食材の仕入れに行ってますよ。それよりミリアさん、なんで二人分なんですか?まさか旦那さんが出来たんですか!?」
勢い込んで訊いてくるレナに苦笑してしまう。
「夫が出来たら連れてきてるわ。今用意してもらっているのは…」
友達の分、と言おうとして私はしゃべるのをやめる。
私はもう友達だと思っているけど、ルカはそう思ってくれているのかしら?
自分が一方的に友達だと思っているだけなのでは?
急に頭に浮かんできた疑問のせいで、ちょっと自信がなくなる。
そのせいで、目の前にいたレナに呟いていた。
「レナ、私達って、友達よね?」
「え…」
一瞬戸惑ったような表情になるレナ。
直後、その目尻に涙が浮かぶ。
「えっと、私はミリアさんとは友達だと思ってたんですけど、ひょっとして私の勘違いでしたか?それとも、なにか嫌われるようなことしました…?」
ああ、いけない。かなり誤解を招く発言をしてしまった。
「ごめんなさい、レナ。違うのよ、それは誤解。私はあなたを友達だと思っているわ。ただ、それが私の一方的な勘違いだったらどうしようと思ったものだから」
「そうなんですか…?よかった、嫌われてたら、泣いちゃうところでした」
ほとんど涙目のレナは袖で目元を拭うと、とぼとぼと厨房に入って行く。
そしてすぐに湯気の立つ料理を持って出てきた。
「お待たせしました。とりあえず、ミックスピザです」
大きな皿に乗せられたピザが目の前に置かれた。
「さすがレナ。仕事が早いわね。で、とりあえずってどういうこと?」
「これだけじゃないですからね。今、特製サラダを持ってきます」
レナは再び厨房へ行き、宣言通りサラダを持ってきた。
色鮮やかな野菜とベーコンが綺麗に盛られたサラダは見た目からしておいしそうだ。
「はい、どうぞ。ドレッシングは特製のものをかけておきました」
「ありがとう。じゃあ、代金はいくら?今回は二人分だから払うわ」
いつもはタダで食べさせてもらっているが、今回は二人分。
いくらなんでも、これで支払わないのは気が引ける。
だが、レナは首を振って固辞した。
「代金はいりません。友達、ですから」
友達の部分を強調して言うレナに、思わず笑ってしまう。
本当にいい友達を持ったものだ。
「ありがとう、レナ。今度はその子も連れてくるから」
「はい、お待ちしています」
四本の尻尾をわさわさと揺らすレナに見送られながら、店を後にする。
「さて、行きましょうか」
ピザに保温魔法をかけて冷めないようにすると、私は少し心を躍らせながらルカの家へと向かった。




森の中にひっそりとある家。
こういう表現をするとその中には何かよからぬものがいそうな感じがするが、私の目の前にある家には可愛らしいサキュバスがいるのだから不思議なものだ。
それにしても、森の中は空気が澄んでいて気持ちがいい。
それが朝ともなれば、なおさらだ。
ひょっとしたら、ルカもそういうところを基準にここに住んでいるのかもしれない。
そんなことを思いながら、彼女の家の扉をノックする。
「…誰?」
少しの間を開
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