「これでよし、と」
パンにハムとレタスを乗せると、最後にソースを塗ってもう一枚のパンで挟む。
今、私がしているのは朝食のサンドイッチ作り。
ちなみにソースはレナから教えてもらった特製で、調味料と魔界の香草を混ぜて作ったものだ。
これがとてもおいしく、初めて食べた時は感動を覚えるほどだった。
だからこそ、これを考えついたレナは本当にすごいと思う。
料理を始めたのは少し前になるが、自分でやってみると本当に難しい。
魔法なら理論を理解すればあとは簡単に出来るのに、料理は違う。
作り方を覚えたところで思った通りの味にならなかったり、以前と同じように作ったはずなのになぜか味が違ったりと、なかなか思い通りにいかない。
その分やりがいがあって楽しいのだけど。
完成したサンドイッチを皿に乗せると、コーヒーとともにテーブルへと運ぶ。
「いただきます」
まずはサンドイッチだ。
一口食べてみると、ほとんどレナの作ったものと同じ味がした。
本人から作り方の指導を受けたので近い味に出来てもおかしくはないのだが、それでもレナのものとほぼ同じ味を作れたのは嬉しく思う。
なんとなくだが、少しは上達している気がするのだ。
そんなことを思いながら二口目を食べようとした時だった。
扉をノックする音が聞こえた。
誰だろう?
「どちらさま?」
そう言って扉を開けると、そこには見慣れたハーピーがいた。
「おはようございます。いつもの、お持ちしましたよ」
ハーピーが手渡してきたのは魔界版の新聞だ。
「ありがとう」
「それとこちらも」
なぜか別の巻物らしきものを渡された。
「これは?」
「陛下からです」
陛下ということは母様か。
一体なんだろう。
とりあえず新聞は後回しにして母様からの巻物を開いてみると、そこには十人の男の顔が描かれていた。
ご丁寧に年齢やら住所といった詳細まで記されている。
ああ、そういうことか。
ようするにあれだ、お見合い写真みたいなものだ。
この中から気に入った男がいれば、ものにしてこいということなのだろう。
私は瞬時に興味をなくし、巻物を元のように丸める。
「なにが書いてあったんですか?」
魔王である母様が差し出したものだからか、ハーピーは興味津々といった様子。
「大したことは書いてないわ。ちょっとしたおせっかいだけよ」
ハーピーにそう説明すると、彼女は興味をなくしたらしい。
「そうですか。じゃあ、私はこれで」
そう言って飛び去る彼女を見送ると、私は台所に戻る。
巻物をテーブルの端のほうに放り投げ、新聞を片手に席につくと朝食を再開した。
サンドイッチを食べつつ、新聞に目を通す。
書いてある内容は人のものと変わりなく、あの人がついに結婚だとか、教団が東の大陸に進出したといったもの。
いくつもある記事に目を通していくと、そのうちに求人が書いてある誌面になった。
そこには日雇いの仕事から長期間の仕事まで様々なものが載っている。
普段から求人情報は数多く載っているので、いつものようにそのほとんどを流し読みしていると、ある求人が目に入った。
『戦闘能力に自信のあるサキュバス募集、報酬は応相談 依頼者ルカ』とあった。
「戦闘能力?」
私はその部分を声に出して確認する。
なぜサキュバスなのに戦闘能力なのだろう?美貌ではなくて?
なんとなく興味が沸いた私は依頼者の住所を確認する。
ここからそう遠くないわね。
「たまには散歩以外のことをしてもいいかな」
サンドイッチを完食し、コーヒーを飲み終えた私はリリムの衣装に着替えると、家を後にする。
向かうはルカの家。
なんとなく楽しそうな予感がする。
私は笑みをこぼすと翼を出して飛び立った。
そして誰もいなくなった家では開かれたままの新聞と、もう二度と開かれることはないであろう巻物がテーブルの上に虚しく転がっていた。
私が来たのはローハスという街だった。
人の世界のように防壁には覆われておらず、代わりにそのほとんどが森に囲まれている街だ。
家が近いという理由で私自身、何度も訪れている。だから街の作りはおおよそ把握している。
ルカとやらの家がこの街の近くにあるとのことだったので、私は街の入り口へと着地した。
さて、まずは家の場所を訊くことにしよう。
私は近くを歩いていたサキュバスに声をかけた。
「ごめんなさい。ちょっと訊きたいのだけど、ルカという人の家がどこにあるか知っているかしら?」
「ルカさんですか?彼女でしたら、街から少し東に行ったところに住んでいます。森の中に一つだけ家がありますから、行けば分かりますよ」
「そう、ありがとう」
丁寧に教えてくれたサキュバスに礼を言うと、私はその場から飛び立つ。
言われた通りに東に飛んでいると、すぐに一軒の家が目についた。
「あれね」
見渡す限りの森の中に一つだけあるので間違いない
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