食後、お嬢様の様子がおかしいので、額に手を当ててみると熱を帯びていた。
彼女は頬を赤らめ、弱々しく俺の手を払いのけようとしたが、その腕には力がこもっていた。
どうやら、いつもの発作が近いらしい。発作に至る前に対処しないと。
「お嬢様、ベッドへどうぞ」
「でも・・・」
「旦那様のご命令です。どうか」
俺の言葉に、お嬢様はあきらめたのか、渋々と言った様子でベッドに向かった。
まあ、向かったと言っても、食卓代わりのテーブルから離れれば、僅か数歩でベッドだ。椅子をたってベッドに入った、と表現すべきだろう。
「少しお待ちください」
俺がベッドに横たわったお嬢様にそう言うと、彼女は顔を赤くしたままコクン、と頷いた。
俺は彼女から目を離し、テーブルの上の食器を簡単に重ね、運んだ。
俺たちが押し込められている、この屋敷の地下牢の鉄格子の外にだ。
俺がこの商家に召使いとして雇われたのは、数年前のことだった。庭師の手伝いや荷運びなど、屋敷の雑多な力仕事を任されていた。
そして数ヶ月前、俺はこの家の三女であるお嬢様とともに、この地下牢にぶち込まれた。
理由は簡単、お嬢様が出かけた先でワーウルフに噛まれたからだ。
幸い、命に別状はなかったが、ワーウルフの魔力によりお嬢様はワーウルフの仲間入りを果たしてしまった。
「表に出すと家名に泥を塗る。隠せ」
旦那様は三番目の娘の姿に、そう吐き捨てるように言うと、屋敷で代々使われていた隠し部屋にお嬢様を閉じこめることを選んだ。
表向きは、遠くの取引相手の家に嫁いでいったという形で、お嬢様は太陽の下から消えた。
その際、問題が一つあった。ワーウルフの肉体の疼きに耐えかね、男を求めてお嬢様が遠吠えする可能性があるのだ。
ワーウルフとなってもお嬢様はその性格を大部分保っており、はしたない真似はすまいと振る舞っていた。だが、いずれワーウルフの本能が彼女の意識を侵し、男を求めて吠えさせるだろう。
そうなれば、ただでさえ薄氷の上に乗っているような家名は、地に落ちてしまう。
ならば、先にいなくなってもかまわないような男を、世話係としてあてがえばいい。
こうして、お嬢様の世話係として、俺が選ばれたのだった。
食器を鉄格子の外に置き、振り返る。
すると、ベッドの上に横たわるお嬢様の姿が目に入った。
彼女は最低限のスカートとブラウスだけを身につけ、顔を赤らめ、身を固くしていた。
俺は地下牢を横切り、ベッドの端に腰を下ろした。すると、ベッドの上の彼女がぴくん、と体を震わせた。
「そう緊張しないでください」
「でも、どうしても慣れなくて・・・」
どこかどぎまぎとした様子で、お嬢様は目を泳がせながら答えた。
まるで初夜を迎えた新妻のようだ。俺は何を考えているんだ。
「慣れなくて、って何度目だと・・・」
脳裏に一瞬よぎった考えを振り払う意味を込めて、俺は改めてお嬢様にそう問いかけた。
「ああ、言わないでください・・・」
すると彼女は恥ずかしくてたまらない、といった様子で顔を隠すと、頭髪の間から覗く三角形の耳を垂れさせた。
「まあ、どうしてもイヤだ、とおっしゃるのならば今夜はやめておきましょうか?」
俺の問いかけに、彼女の肩が小さく震えた。
こんな恥ずかしい思いをするのならば、やめておこうか。そんな考えが彼女の脳裏をよぎったのだろう。
だが、直後彼女は何かを打ち消すように、ぶんぶんと顔を手で覆ったまま左右に振った。
大方、俺との初夜の出来事を思い出しているのだろう。いや、初夜って何だ。何を考えているんだ俺は。
「いえ、今お願いします・・・」
彼女は地下牢生活で迎えた、最初の衝動の限界を脳裏から追い払うと、顔から手を離しながら小さな声でそう告げた。
「かしこまりました。失礼します・・・」
俺は彼女の傍らに横になると、そっと身を寄せた。
そして、お嬢様の肩に手を伸ばし、優しく抱き寄せた。
「・・・・・・」
緊張を隠すことなく、唇を真一文字に結んだお嬢様の顔が迫る。恋人同士ならばキスでもするのだろうが、俺は彼女の頭を自分の胸元に導いた。
かすかな重みが胸に触れ、彼女の体温が衣服越しに伝わる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
相手の体温、相手の呼吸の際の胸の動き、相手の心臓の鼓動を共有しながら、俺はお嬢様を優しく抱き、お嬢様は大人しく抱かれていた。
彼女の体は緊張により妙に力んでいたが、じっと温もりを感じているうちに力が抜けていった。
「・・・落ち着かれましたか・・・?」
俺の鼻先、頭髪の間から覗く、いつの間にかピンと立った狼の耳にそうささやくと、腕の中でお嬢様の頭が小さく動いた。
肯定を示す、頷きだ。
「お休みになられるまで、このままにしますか・・・?」
念のため、俺が問いかけると、今度は左右に頭が揺れた。肉欲をため込んで限界を迎え
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