山と山の合間の林を、一体の魔物が歩いていた。
白い羽毛で全身を覆った、鳥と人の間のような姿の魔物―コカトリスだ。
彼女の近辺に漂う微かな甘い香りは、彼女が独り身であることを示していた。
コカトリスは身に纏うフェロモンで男性を誘いつつ逃走し、足の速い者のみと番うのだ。しかし、未だ彼女が独り身であるという事実は、彼女が俊足であることを示していた。
「…?」
木々の間から、ふと彼女の鼻孔を何かがくすぐる。
人の匂い。それも、男性の匂いだった。
匂いが漂ってきたということは、彼女がいるのは風下だ。
木々の間から透かして見れば、微かに樹木や植物の色とは異なる何かが、森の向こうに見えた。
こっそりと風上に回れば、この匂いの主に自分のフェロモンを嗅がせるだろう。だが、フェロモンを嗅がせて興奮させたところで、相手は興奮するだろうか?
コカトリスは逡巡した。
正直なところ、人と出会うのは少し怖い。特に、フェロモンで興奮した相手など、彼女にとっては恐怖の対象でしかなかった。
やはり、ここはこっそりと離れることにしよう。
コカトリスはしばし黙考したところで、腹を決めた。
だが次の瞬間、彼女の背後から風が吹いた。ちょうど、風向きが真逆になったのだ。
すると、木々の間から見えていた人影が、びくりと動きを止めた。
そして直後、木々の間から覗く色が、匂いを辿るように草を掻き分けはじめた。
「!?」
突然動き出した男の気配に、コカトリスは驚愕した。
そして彼女の身体は、意志が命じるより先に動き出していた。
「っ!」
木々の間を、草木を掻き分けながら彼女は逃げていく。
コカトリスの種族としての本能に刻み込まれた、逃げるという行為。彼女の肉体は、両親譲りの俊足をいかんなく発揮し、見通しの悪い森の中だというのに平原と変わらぬ速度での逃走を可能とした。
しかしその一方で、彼女の背後から響く、枝葉を掻き分ける音と足音はなかなか遠ざからなかった。
いや、むしろ近づいているように、コカトリスには感じられた。
ちらり、と肩越しに背後を振り替えるが、木々の間に人間と思しき影は見えない。
だが、枝葉を揺らす音だけは、彼女の後ろから響いていた。
一体なぜ、と彼女の胸中に疑問が生じると同時に、不意に頭上から降り注ぐ日の光が遮られた。
顔を上げると、張り出した枝葉を背に、木々の間をコカトリスに向けて何かが躍り掛かってくるところだった。
枝葉を揺らす音は、彼女の背後ではなく彼女の斜め上方から響いていたのだ。
疑問が解決されると同時に、見上げる彼女に影がぶつかった。
影がコカトリスにしがみつき、一つの塊となりながら木々の間を転がった。
そして、影が彼女の上になったところで、二者の動きが止まった。
「ひ…!」
いつの間にか閉じていた目を開くと同時に、コカトリスの口から声が漏れる。
彼女の目に映ったのは、葉を透かして差し込む日の光を背にする、目をフェロモンによって血走らせた男の顔だったからだ。
酷く興奮しているらしく、彼は荒く呼吸を重ねている。
そして、彼はコカトリスの胸元に手を伸ばした。首から下げたスカーフがずらされ、その下の控えめな乳房が露になる。
「い、いや…!」
コカトリスの口から拒絶の言葉が溢れ出すが、それとは裏腹に彼女の心臓はとくんと高鳴った。まるで、淡い想いを抱いていた異性から好意をほのめかされたかのようにだ。
それもそのはず、コカトリスの肉体が、自身の足に追いついた男の精を求めているからだ。
しかし、彼女の臆病と言う精神は、フェロモンに中てられた男に対して恐怖を抱いていた。
脳髄の芯が冷えるような思いと、体の芯が熱くなるような感覚が、彼女の中に同居していた。
男の指が控えめな乳房を掴み、微かな痛みと胸の奥からむずがゆい快感が生じる。
「ひ…!」
コカトリスは恐怖に強張る体に生じた快感に、ひきつった声を漏らしながら、身体を震わせた。
恐怖の震えではない。快感と、これからに期待した肉体のわななきだった。
「はぁ、はぁ…!」
コカトリスのフェロモンによる興奮のせいか、樹木の上を枝から枝へと飛び移るでたらめな移動のせいか、彼の呼吸は乱れており、彼女の恐怖を煽る。
だが、男はコカトリスの抱く感情など気にも留めず、欲するまま乳房を揉みたてた。
指が食い込む鈍い痛みが、コカトリスの内側で快感に変わり、恐怖に固まる彼女の精神に染み入った。
だが、快感は彼女の硬直した意識を溶かすには及ばなかった。
「はぁ、はぁ…!」
男は乳房を揉む指を止め、コカトリスの下腹部に指を伸ばした。
きゅっと閉じられた両足を無理やり押し開き、白い羽毛を探る。すると、彼女の両脚の間が微かな湿り気を帯びていた。
男は、湿り気の導くまま羽毛を掻き分け、僅かに濡れた亀裂に指を押し込んだ。コカトリスの女陰は、男の指を咥え、隙間
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