(13)リザードマン

夜。一人の男が、寝台に身を横たえていた。
だが、眠っているわけではなく、月が僅かに差し込む光の中、彼は目を開いていた。
眠るまいとしているのではない。眠れないのだ。
何故なら、ほんの数時間前、昼間に彼はついに剣の師匠を上回ったからだ。
手には未だ剣の重みと、師匠の刃を弾き飛ばした時の衝撃が残っている。
耳には金属のぶつかり合う音と、師匠の幾ばくかの驚きと満足の入り混じった『参った』という声が残っている。
そして目を閉じれば、男の突きつける刃の前に無手で立ち尽くす半人半蜥蜴の美女、リザードマンの師匠の残像が浮かび上がった。
そうだ、自分はついに師匠に勝ったのだ。
五感に残る感覚が勝利の記憶を呼び起こし、勝利の記憶があの瞬間の五感をよみがえらせる。
簡単に言えば、『今になって実感がわいてきた』という訳だ。
「……起きているか…?」
きぃ、という扉の軋む音とともに、不意に女の声がした。
師匠の声だ。
男は、五感と記憶の共鳴に囚われていたまま、部屋にリザードマンが入ってきたことに遅ればせながら気が付いた。
「あ、師匠…」
「師匠はやめろ。もうお前に教えることは何もないのだから」
リザードマンに彼が呼びかけると、彼女はそう返しながら月光の差し込む部屋を横切り、男の横たわるベッドに腰を下ろした。
「な、何を…」
「少し話をしようと思っただけだ」
身を起こす男に目も向けず、彼女は腰かけたまま応えた。
「昼間はよくやったな。ついこの間まで剣の握り方も知らない坊主だと思っていたのに、よくやったな」
「…師匠のお陰です…」
「だからもう師匠と呼ぶな…ああ、いや違う…こんな話をしに来たわけじゃなくてだ…」
薄闇の中、彼女は頭を振ってから静かに続けた。
「お前、なぜ私がいい歳して結婚もせずに剣を振ってるか、分かるか…?」
「ええと、その…剣と武のために」
「そういう理由じゃない」
常日頃から、剣を持つ際の心構えとして男が言い聞かされていた言葉に対し、彼女はにべもなく突っぱねた。
「答えは簡単だ。夫にする男は、自分より強い男だと決めていたからだ。ところが、私より強い男が現れないから、この年まで剣を振るしかなかったんだ」
彼女は背を向けたまま、ふふふ、と笑った。
「……うん?」
師匠の発言にどう返したものかと考えていると、ふと男の胸中を疑問が浮かんだ。
彼女が独り身を貫いていたのは、自身より強い男が現れなかったから。そして自分はつい先ほど、師匠に勝った。つまり
「だから、お前には責任を取ってもらうぞ…!」
男の理解が及ぶ寸前、リザードマンが身をひねり、身を起こす彼に覆いかぶさるように襲いかかった。
ほぼ不意打ちの体当たりに、男の身体は容易にベッドの上に押し倒される。
「ふふ、出会った頃はあんなに細い体だったのに、立派になったな…」
リザードマンは興奮に震える声でそう紡ぎながら、男の衣服を剥ぎ取った。
そして、彼女の指が日々の訓練で鍛えられた彼の身体を這いまわる。
「し、師匠…!」
「師匠はやめろ」
胸板や腹をつたなく擦る彼女の指に、男はリザードマンを呼ぶが、返ってきたのはやや不機嫌な声音だった。
彼女は愛撫めいた動きで男の身体を一通り擦ると、ズボンに手を掛けた。
「ん?感じているようだな…」
下着ごとズボンを下ろそうとして感じられた僅かな引っ掛かりに、彼女は薄闇の中でニヤリと笑みを浮かべた。
実のところ、男は彼女の愛撫に興奮させられたのではなく、師匠であるリザードマンに衣服を脱がされつつあるという事実に肉体が反応しているだけだった。
やがてズボンが太ももの半ばまで引きずり降ろされ、半ば勃起した屹立が露になる。
「加減が良く分からなくて不安だったが…どうにかなりそうだな…」
肉棒を目にすると、リザードマンの彼女はいくらか自身に言い聞かせるような調子でそう言い、自らの衣服に手を掛けた。
「どうにかって…え?」
「言っただろう、私が夫とするのは私より強い男だと」
リザードマンの言葉を聞き返そうと男が声を漏らすと、彼女は衣服を脱ぎ捨てながら続けた。
「だから、こうして寝台を共にするのも、自分の意志で肌を晒すのもお前が最初なんだ…」
薄闇の中、手に納まるほどの乳房を晒しながら、彼女は男に向けて言い訳めいた口調で言った。
「責任、取ってくれよ…!」
彼女は腰を浮かすと、柔らかさの残る男根に指を添え、それに跨った。
「え、いやちょっと師匠…!」
彼女の行動に許容も拒絶も示せないうちに、屹立の敏感な先端に、濡れた柔らかいものが触れた。
「…ふっ…!」
直後、リザードマンが低く声を漏らし、腰をゆっくりと沈める。
すると屹立が柔らかく温かなものに、先端から飲み込まれていった。
「ぐ、う…う…!」
僅かな引っ掛かりと低い呻きを繰り返しながら、リザードマンがゆっくりと胎内に肉棒
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