(6)ラミア

隣人の姿をここ数日見ていない。最後に見たのは、「しばらく旅行に行きます」とあいさつする隣人夫妻の姿だ。
だが、夫妻の話によれば、娘が留守番で残っているらしい。
僕は、庭先を掃く手を休めて、お隣さんの家に目を向けた。
窓にはカーテンがかかっており、中の様子はうかがえない。
幼馴染である彼女の性格を考えるなら、自分もどこかに出かけたりせず、留守番の任を全うするはずだ。
だが、隣の家には少なくともここ数日人が出入りした気配がなかった。
病気でもして寝ているのだろうか?
僕は、とりあえず様子見も兼ねて尋ねてみることにした。


「おーい、いるかー?」
掃除を終えると、パンと飲み物を手に僕は隣家のドアをノックした。
いつもなら、おばさんが「はーい」と顔を出すか、幼馴染が「なーにー?」と出てくるかだ。
だが、返事は無かった。
「もしかして留守かな…?」
留守番の任を放棄して、親戚の家かどこかへ行っている可能性を考えながら、僕はドアノブに手を掛けた。
鍵がかけられ、動かないとばかり思っていたドアは、僕の手に容易く開いた。
「…おじゃましまーす」
屋内の暗がりに向けてそう呼びかけながら、僕は扉を開き、入った。
テーブルと、背もたれのない椅子の並ぶ居間には誰もいない。自分の部屋にいるのだろう。
僕はそう踏むと、壁に並ぶドアの一枚に近づき、軽くノックした。
「入るぞー」
続けてそう声をかけてから、ドアを押し開く。
僕の目に入ったのは、チェストや机、背もたれのない椅子にベッドの並ぶ部屋だった。
そして、カーテン越しの陽光に、ベッドの上に横たわる彼女の姿が照らされていた。
彼女は一糸まとわぬ姿で、ぬらぬらと薄く光を照り返す巨大な蛇のそれとした下半身を、力なく床へ垂れさせていた。
「っ!」
目に飛び込んだ彼女の様子に、僕は息を詰まらせた。
彼女の蛇身を見たことに対する驚きではない。魔物との共存を果たしているこの辺りでは、ラミアの姿などいくらでも見ている。それどころか、物ごころつく前から彼女や彼女の母親の蛇身を見ていたため、人間には腰から下が蛇の人と足に分かれている人の二種類がいると思っていたほどだ。
僕が驚いたのは、彼女の蛇身の先、床の上に皺くちゃになって転がる半透明の薄い何かだった。
村の外れや森の中で時折見かける蛇の抜け殻に似ているが、事実その通りだ。
大きさや位置から考えると、彼女の抜け殻なのだろう。
ラミアも脱皮すると聞かされていたが、確かかなりの体力を使うはずだ。
話によれば、脱皮で体力を使い果たして身動きが取れず、そのまま死んでしまう場合もあるらしい。
「大丈夫か!?」
僕は声を上げながら駆けより、彼女の肩に触れた。
「ん…」
室内の薄闇のせいか脱皮のせいか、いくらかやつれて見える彼女が薄く眼を開き、低く呻いた。
「あ…」
「のど、乾いてないか?」
僕の問いに、彼女はいくらか渇いているように見える唇を閉ざし、小さく頷いた。
「ほら、これを」
用意していたジュースを、持って来た器に注いで彼女の口元へ運ぶ。
彼女は僕の手の上から器に手を添えると、唇をつけて、ジュースを飲んだ。
彼女の白い喉が上下し、器の中身が空になる。
「ほら、もう一杯」
「うん…」
飲み干した器に二杯目を注ぎ、彼女が飲み干す。そこでようやく彼女は人心地ついたようだった。
「…大丈夫?」
「うん…なんとか…」
手にした器を僕に返しながら、彼女は頷く。
だが、その言葉とは裏腹に、まだどこか調子がよくないようだった。
「腹、減ってないか?」
僕の問いに彼女は、小さく頷く。
「だったらこれを…」
そう言って、パンを取ろうとした腕を、彼女の手がつかんだ。
ついさっきまで、器に添えられていた弱々しい物ではなく、軽い痛みが走るほど強く握りしめられていた。
「っ…!」
声を上げる間もなく、彼女が体をひねり、ベッドの上に僕を押し倒した。
そしてそのまま、声を上げようと半開きになっていた口に、彼女の唇が覆いかぶさる。
彼女の重みが僕の上に加わり、唇を通して温もりが伝わる。
それが僕と彼女にとってのキスだと気が付いたのは、少ししてからだった。
だが、この時は口内に押し入ってくる細長い彼女の舌に、目を白黒させるほか出来ることはなかった。
「……」
しばしの間彼女は僕の唇を堪能すると、顔を離した。
頬は上気して桃色に染まり、僕の口と糸を引く彼女の唇から出入りする息は、荒くなっていた。
「いい…でしょ…?」
彼女の言葉の意味するところを理解したのは、僕の脚に彼女の蛇身が巻きついてきたからだった。
脱皮したての滑らかな鱗に覆われた蛇身が、ふくらはぎから膝、太もも、腰へと巻きついてくる。
そして、僕の身体をがっちり蛇身で巻き付けて固定してから、彼女は僕の下半身に手を伸ばした。
蛇身の間から覗いていた僕の股間
[3]次へ
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33