(1)アルラウネ

ふと気が付くと、俺は木々の合間を進んでいた。森の中を通る細い道をいつの間にか外れていたようだ。
だが、俺の脳裏に危機感は欠片も浮かばず、足取りも変わることなく木々の合間を進み続けていた。
どういうことだろう?
妙に考えのまとまらない頭で、俺は考えた。
そもそも何をしていたのか、どこへ行こうとしていたのか。目的地を思い出そうにも、完全に手ぶらのため見当もつかなかった。
いや、森の中を進むうちに落としたか捨ててしまったのだろう。
猛獣に襲われれば、身を守る手立てもないというのに、俺は妙に心穏やかだった。
おそらく、辺りに漂う甘い香りが、俺の心から危機感や思考力を奪っているのだろう。
だが、俺はそう思い至ったというのに、匂いから離れようともせず、逆に匂いの源に向かって森の奥へ奥へと進んでいた。
程なくして、張り出した木の枝をくぐったところで、木々の間に生じた広場に出た。
剥き出しの地面には、辺りの木々とは異なる植物の根か蔓が張っており、広場の中央にその源が鎮座していた。
それは巨木の切り株のようだった。人の腰ほどの高さもないくせに、その上で食事が出来そうなほど太かった。
そして低くて太い幹の上に、それはそれは巨大な花のつぼみが生えていた。花弁が幾重にも折り重なった桃色のつぼみである。
つぼみの窄まった先端から、甘い香りは溢れているようだった。
俺は香りをもっと嗅ぐため、ふらふらと花のつぼみに歩み寄っていた。
視界の端で、地面を這いまわる蔓が動いたように思えたが、俺は気にせず足を進める。
やがて花の目の前にたどり着くと、地面を這いずり俺を取り囲んでいた蔓が、俺の身体に巻き付いて持ち上げた。
俺とつぼみの距離がより一層縮まり、俺の眼前で鼻が開く。むせ返るような甘い香りが辺りに溢れ出し、俺の思考を麻痺させていった。
気が付けば森の仲という状況も、身体に巻きつく蔓も、巨大な花も、何もかもが夢のように感じられた。
何より極め付けだったのは、朦朧とする俺の目に飛び込んだ、花の中央で自身を抱きしめる美女の姿だった。
太ももの半ばより下は花弁に隠れて見えないが、豊かな乳房や引き締まった腰はむしゃぶりつきなるほどで、花の蜜に濡れて細い蔓が絡む様子は実に扇情的だった。
今、俺が蔓に全身を絡め取られていなければ、この場で押し倒しているほどだ。
そんな俺の劣情を察知したのか否か、美女が閉ざしていた両の目をゆっくり開いた。
青い瞳が俺の姿を捉えると、彼女は目を細めてにっこりとほほ笑んだ。まるで、俺という訪問者を歓迎するようにだ。
すると俺に絡み付く蔓が再び動き、彼女との距離を詰めさせた。
彼女は、自身を抱きしめていた両腕を解くと、俺に向けて掌を差し出し、蔓越しに俺の形をなぞるように撫で始めた。
衣服と蔓を隔てているというのに、彼女の手の動きはひどく淫靡で、直に愛撫されているような錯覚を覚えた。
やがて彼女の掌は俺の下半身へと移り、蔓とズボン越しに股間に触れた。
俺のそこはすでに屹立しており、蔓を内側から押し上げるものの存在に、彼女は少しだけ微笑みを深めた。
股間を覆う蔓が緩んで退き、彼女の指がズボンの内側から俺の屹立を取り出した。
花の蜜に滑る指に触れられるだけで達してしまいそうだったが、俺は朦朧とした意識なりに踏ん張って、快感を堪えた。
女はびくびくと震える肉棒を愛おしげに一撫ですると、顔を寄せて口に含んだ。
飴でも転がすように、唾を塗りたくるように、女の口内の肉が動き回り、舌が絡みついてくる。
女の唾は、花の蜜のようにねっとりとしており、舌を軽く巻きつけるように動かしているだけだというのに、まるで何枚もの舌に絡まれているようだった。
蜜状の唾液と彼女の舌技により、限界まで追い込まれていた俺はあっという間に達した。
彼女の口中で屹立が跳ね、白濁を迸らせる。
彼女はあっという間の絶頂に何の感情も見せず、ただ唇を窄めて、白濁を一滴も漏らさぬよう受け止めていた。
そして、射精が終わるころになって、ようやく口内に溜め込んだ体液を飲み干して、屹立を解放した。
女は唇と亀頭の間に糸を引きながら、にっこりと笑みを浮かべた。
その淫靡な表情に、俺の肉棒にじんわりと血が集まるようだった。
すると彼女は勃起の気配を察したのか、花の中でぐるりと身を回転させ、俺に背を向けた。
そしてその状態で腰を浮かし、肩越しに振り返りつつ尻に指を添える。
まるで、後ろから突っ込んでくれと言わんばかりの姿勢だ。
いや、事実そうなのだろう。俺を拘束していた蔓は、俺を花の上に下ろすといつの間にかほどけ、退いて行ったからだ。
おそらく、蔓も花も彼女の一部なのだろう。アルラウネという花の魔物が存在し、男を誘うという話を、俺は朦朧とした頭のどこかで思い出した。
アルラウネは誘った男を花弁の中に閉じ込めてし
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