「さて皆さん、今日はマイダスの日です」
壇上に立つ男が、眼下のベンチに並ぶ男たちを見回しながら、そう口を開いた。
大陸の南北に連なるダッハラト山脈の西側、エルンデルストの村の教会に、今夜も多くの人が集まっていた。
「前回説明した通り、マイダスの日は嘘を吐いていい日です」
壇上の男が朗々と説明を始める。
「マイダスの日の由来は、今は昔、大陸の東部ジパングに程近い土地のインという国に、愚かな王様が居たことに始まります。王様は国民の生活など気にせず、税を取立て、贅を尽くし、毎日気楽に過ごしていました。
そんな中、イン国の宰相は頭を抱えていました。インの国民は王様の生活を支える為、苦しい日々を送っています。ですがいずれ我慢の限界が来て、農機具を手に宮殿に押しかけるでしょう。
そうなれば、王様に不満を抱えている兵士も寝返って、簡単に宰相も王様も首を取られるに違いありません。
では、どうすればいいのか?簡単なことです、国民の不満を発散させればよいのです。
こうして制定されたのが、マイダスの日です。この日だけは、仕事や生活に関わらない限り、どんな嘘を吐いても構いません。税金が高すぎるという嘘も、王様が気に食わないという嘘も、許されるのです。
こうして、インの国の国民は毎年マイダスの日に嘘を吐くようになりました」
彼は言葉を切ると、間を挟んでから眼下の男たちに語りかけた。
「と、言うわけで今日は皆さんの嘘を発表してもらいます」
「ズイチュー議長!」
席に着く男の一人が、声と共に手を上げる。
「なんでしょう」
「マイダスの日の由来は分かりましたが、その後のインの国はどうなったのですか?」
「勿論嘘を吐くのを許したぐらいでは国民の不満は解消できず、反乱で滅びたそうです」
微妙に縁起の悪い結末を、ズイチューは口にした。
「しかし、このエルンデルストの村でのマイダスの日は、不満解消ではなくあくまで嘘を吐くことが目的であります。ですから、僕たちの首が皆さんによってもぎ取られることは無いと信じております」
彼は村人達を一望すると、続けた。
「それでは、今回も議長は僕ズイチューが、書記はソクセンが勤めさせていただきます。では皆さん、嘘をどうぞ」
その一言の直後、ベンチに並ぶ男たちがいっせいに手を挙げた。
1.王都の料理屋で精液払い
あれは、私が王都で兵士をしていた頃でしょうか。当時独身だった私は、近所の食堂で朝昼夕の三食を賄っていました。
少々味には不満はありましたが、値段が安かったので毎日通っていました。
そんなある日、当時所属していた部隊の隊長が、いい食堂があると私を誘ってくれたのです。
向かった先は、裏町に存在する東部料理店でした。いかがわしい店が軒を連ねる通りに、一見だけ料理店があるのは、実に奇妙な景色でした。
しかし私の疑念も、隊長と共に店の中に入れば吹き飛びました。
店で私達を向かえたのが、肌を多く露出した衣装を身に着けた女性たちだったのです。
それも、人間の女性ではなく、角や尾を生やしたサキュバスを一とする魔物でした。
サキュバスの店員が私にしなだれかかり、腕に胸を押し付けながら席に案内します。席に着けば、ホルスタウロスの店員が胸の谷間にメニューを挟んで持って来てくれました。
そして、私達がメニューを選んでいる間に、スライムの店員がグラスを二つ運んできたのです。
彼女はテーブルにグラスを置くと、サービスだといって口を開け、舌を突き出しました。すると、彼女の舌先に雫が生じ、グラスの底に垂れ落ちていったのです。
後で聞いたところによると、あれは彼女が体内の水分を抽出しているだけだったのですが、初めて目にした私には唾液をグラスに注いでいるようにしか見えませんでした。最も不潔感は全くなく、むしろ彼女の表情や仕草と相まってある種の淫靡さを醸すほどでした。
おかげで、私は彼女が二つのグラスに水を注ぎ、どうぞと差し出すまでメニューに目を落とすことどころか、指一本動かすことさえ出来ませんでした。動けるようにんったの葉、スライムの店員が離れてからです。ああ、水は透き通った味がして美味しかったです。
さて、水を飲んで人心地ついたところで、私は隊長に『ここはどういう店なのか』と訪ねました。
隊長によると、ここは昔王都に住む魔物たちが人目を避けて精を得るための店だったそうです。ですが最近の対立関係の軟化に伴い、隠れる必要がなくなったため、このような店になったということです。
隊長は説明を終えると、私に何を頼むか聞きました。ですが、ろくに頭が回っていなかったため、自分では何も決められそうにありませんでした。
そこで、隊長と同じ物を注文することにしました。
隊長は私の言葉に、一瞬驚きを見せましたが。すぐにニヤリと笑みを浮かべました。
笑みの意味は、後で嫌という
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