(106)白蛇(シロヘビ)

1月1日
目を覚ますと、いつの間にか日が高く昇っていた。
初日の出を見逃してしまった。
やはり昨夜、除夜の鐘に合わせて繋がったまま腰を動かして年越しを迎えたのがいけなかったらしい。
年越しを迎えた後も夫との交合が止まらず、失神するように眠ってしまった。
とりあえず夫を起こし、互いに全裸で新年の挨拶を交わした。
生まれたままの姿で新年を迎え、「あけましておめでとうございます」。何かに使えるかもしれない。
それから私たちは着物に袖を通し、家を出た。
本来ならば初詣だが、それは明日イヤというほどできる。
だから今日は正月休みを堪能させてもらおう。
手始めに向かった先は、私の実家だった。
出かけたのが遅かったためか、すでに両親と妹が帰省した姉夫婦とともにお節をつついていた。
遅刻をわびつつ、夫とともに新年の挨拶をする。
しかし、姉と姉の旦那の様子が少しおかしかった。見ると、姉の尻尾が姉の旦那の腹に巻き付いていたのだ。
「これは私のもの!」と主張するようにだ。
姉としても、美人の妹二人が居る実家に、旦那を連れていくのだ。ああやって尻尾を巻き付け、周囲を威嚇しないと不安なのだろう。
そこまでしないと安心できないとは、同じ白蛇ながら独占欲が強すぎると思う。
誰もあなたの夫など狙いはしませんよ、姉さん。
そう口に出して言ったところで、姉は旦那をはなそうとはしないのだろう。
だが、問題は私の妹だ。夫とともに実家を訪れる度、妹はちらちらと私の夫に視線を向ける。きっと私の夫に気があるのだ。
確かに、私の夫は優しいし顔立ちもいいしいい香りがする。そんな夫と結ばれた私は幸せものだと思う。
しかし、いくら私が幸せに満ち溢れているといっても、家族相手でも幸せのお裾分けをしてやる必要はないはずだ。
だが、妹は私から幸せをかすめ取ろうと、夫の隣に座っている。
ことあるごとに妙に甘えた声で夫に話しかけ、時折肩や二の腕に触れたりしている。
やめろ。そうしていいのは私だけだ。そう、声を荒げて怒鳴ってやりたいが、私はぐっと我慢した。
久々に家族がそろっての団らんや、正月のめでたい雰囲気を壊したくないからだ。
だから私は、最低限の主張として、自分の尻尾を夫の腹に巻き付けておいた。
これで、誰が見ても彼が私の夫であることが伝わるはずだ。
しかしそれでも、妹は私の夫に話しかけ、夫もどこか楽しそうに応じていた。
やがて日が傾き、用意されていた料理がなくなる頃、姉夫婦がそろそろ帰ると言い出した。
確かに長居しすぎた。私たちも帰るとしよう。
姉とともに私も席を立ち、空になった食器を片づける。
そして、両親や姉夫婦、妹に挨拶をすませて、私たちは実家を後にした。
すでに日はだいぶ傾いており、時刻は夕刻であった。
昼食のはずだったお節のおかげで、私も夫も腹が膨れていた。
夫と、姉夫婦の仲がよすぎるだとか、他愛もない話をしているうちに、いつしか私たちは家についていた。
家は冷えきっていたが、それでもどこかほっとする。
それから私たちは、さっと風呂をすませ、歩いているうちに空いた小腹を満たすべく火鉢で餅を焼いたりして、元日の夜を過ごした。


そのうち、どちらからともなく布団を敷き、横になる。
昨夜の疲れはあったが、こうして夫と枕を並べて過ごす夜は未だに楽しく、眠るのが惜しいほどだった。
「今日はいろいろあったなあ」
明かりの消えた寝室で、夫が口を開いた。
「義姉さんとは・・・去年の正月ぶりだったな」
前に姉と会ってから、一年も経っていたのか。私は内心、驚いていた。
「そして義妹ちゃん、前にあったのはお盆のころなのに、大分大きくなっていたなあ」
そう。あの年頃の子は、数ヶ月で大きくなるのだ。
私もついこの間まで子供だと思っていたが、妹はいつの間にか女に目覚めており、私の夫を・・・
「綺麗になってたね」
夫の漏らした一言が、私の内心のくすぶりを燃え上がらせた。
「・・・!」
言葉もなく、ただ隣で横たわる夫に抱きつき、その口が余計な言葉を紡ぐ前に唇で塞ぐ。
「んぐ!?」
妹をほめる言葉は断ち切られ、代わりにくぐもった声が漏れた。
だが、私は夫の唇を吸いながら、彼の体に自分の蛇体を巻き付けていった。
腰から下、両足を縛り上げるように、私の蛇体が絡みついていく。
「んぶ・・・んむむ・・・!」
夫が何かを言おうとするかのようにうめき声を漏らすが、私は放さない。
蛇の尾を巻き付け、縛り上げたまま、唇を塞ぐ。
すると、蛇体を巻き付ける両足から、みし、と軋みのようなものが鱗越しに私の体に感じられた。
足の骨が締め付けに耐えかね、悲鳴を上げたのだ。
一瞬、このまま締め砕こうかという思いが、私の頭をよぎった。
そうすれば夫は自分の足で歩くことができなくなり、私が居なければほとんどのことができなくなるからだ。

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